フロイトやラカンの精神分析理論は、幼児期に形成されその後も主体を支えている、全能の自己への欲望は、他者を全能の存在とし他者に依存することから構成されるものであることを指摘している(Lacan, 1975)。それゆえ自己幻想は常に他者を支えとする。例えば神経症者においては、現実の他者が否定され、愛情が放棄されることがあっても、他者は世界の背後で、世界を見る視線として無意識裡に措定され、自己はその視線と一体となることによって、他者の場を生き続ける。幻想的他者は、幼児期に主体が他者を通じて欲求を充足し、欲求の迂回と遅延、すなわち文化を通じて世界との現実的関係を構築して以来、世界を操作しうる能動的自己…