間もなく午前四時だ。餃子を焼こうかと思い立った。こういうのが気まま老人の幸せというもんだろうか。 須磨佳津江さんのお声が聞える。「NHK ラジオ深夜便」だ。二十歳代のころ、このアナウンサーが大好きだった。お伽噺を歓ぶ柄でも齢でもなかったけれども、夢の国からやって来たお姫さまがあるとすれば、たとえばこういう人ではないかとすら思っていた。 アナウンサーの平均速度よりも心持ちゆっくりでまったりした、上品な話しかたは当時とお変りない。 午前三時台は〔にっぽんの歌こころの歌〕だ。「昭和歌謡 往年の名歌手 松山恵子作品集」と銘打たれ、“お恵ちゃん”が唄っている。一時間弱の枠内に、知らない曲など一曲もない。…