明石のような田舎に 相当な乳母《めのと》がありえようとは思われないので、 父帝の女房をしていた宣旨《せんじ》という女の娘で 父は宮内卿《くないきょう》宰相だった人であったが、 母にも死に別れ、寂しい生活をするうちに恋愛関係から 子供を生んだという話を近ごろ源氏は聞き、 その噂《うわさ》を伝えた人を呼び出して、 宰相の娘に、 源氏の姫君の乳母として明石へ赴《おもむ》くことの交渉を始めさせた。 この女はまだ若くて無邪気な性質から、 寂しい あばら屋で物思いをばかりして暮らす朝夕の生活に飽いていて、 深くも考えずに、 源氏の縁のかかった所に生活のできることほど よいこともないようにこれまでから焦《こ…