国文学者。(1935年-1991年11月12日) 神奈川県生まれ。東大文学部国文科卒、同大学院博士課程中退、九州大学教養部助教授、中央大学文学部教授。
(1920〜2003)、長野県生まれ。1952年、京都大学文学部卒業、文学博士。国文学専攻、戦後の万葉集研究の第1人者。筑波大学教授、共立女子大学教授を歴任。万葉学会代表を務めた。1995年、長年の研究の集大成として、万葉集の個人全注釈・『万葉集釋注』全13巻・集英社を刊行。
訓読 >>> 虎(とら)に乗り古屋(ふるや)を越えて青淵(あをふち)に蛟龍(みつち)捕(と)り来(こ)む剣太刀(つるぎたち)もが 要旨 >>> 虎に乗って古屋を飛び越えて、青淵に棲む蛟龍(みづち)を生け捕りできる、そんな剣太刀がほしいものよ。 鑑賞 >>> 境部王(さかいべのおおきみ)が数種の物を詠んだ歌。境部王は穂積親王の子とあります。どうやら恐ろしいものを取り合わせた歌のようですが、「虎」は日本にはいませんから、大陸伝来の絵図などから想像したのでしょう。古屋がなぜ恐ろしいのか疑問に思いますが、昔は、人が住まない古屋や廃屋には鬼が住むとして忌避され、「虎や狼より古屋の雨漏りのほうが怖い」とい…
●歌は、「皆人の待ちし卯の花散りぬとも鳴くほととぎす我れ忘れめや」である。 大阪府柏原市高井田 高井田横穴公園万葉歌碑(大伴清縄) 20240307撮影 ●歌碑は、大阪府柏原市高井田 高井田横穴公園にある。 ●歌をみていこう。 題詞は、「大伴清縄歌一首」<大伴清縄が歌一首>である。 ◆皆人之 待師宇能花 雖落 奈久霍公鳥 吾将忘哉 (大伴清縄 巻八 一四八二) ≪書き下し≫皆人の待ちし卯(う)の花散りぬとも鳴く霍公鳥我れ忘れめや (訳)皆の方誰も彼もが心待ちにしておられた卯の花、この花が散ってしまっても、ここに来て鳴いている時鳥の声を、私はどうして忘れることができようか。(「万葉集 二」 伊藤…
●歌は、「鹿背の山木立を茂み朝さらず来鳴き響もすうぐひすの声」である。 京都府木津川市鹿背山東大平万葉歌碑(田辺福麻呂) 20240123撮影 ●鹿背山歌碑は、京都府木津川市鹿背山東大平にある。 ●歌をみていこう。 題詞は、「讃久迩新京歌二首幷短歌」<久邇の新京を讃(ほ)むる歌二首 幷(あは)せて短歌>である。一〇五〇歌(長歌)と反歌二首、一〇五三歌(長歌)と反歌五首の歌群である。この歌は第二群の反歌の四首目である。 第二群の長歌からみてみよう。 ◆吾皇 神乃命乃 高所知 布當乃宮者 百樹成 山者木高之 落多藝都 湍音毛清之 鸎乃 来鳴春部者 巌者 山下耀 錦成 花咲乎呼里 左壮鹿乃 妻呼秋者…
●歌は、「多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子のここだ愛しき」ならびに「赤駒を山野にはかし捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ」である。 東京都調布市多摩川 児童公園万葉歌碑(作者未詳・宇遅部黒女) 20231119撮影 ●歌碑は、東京都調布市多摩川 児童公園にある。 ●歌をみていこう。 ■巻十四 三三七三歌■ この歌については、前稿・前々稿で紹介している。 ◆多麻河泊尓 左良須弖豆久利 佐良左良尓 奈仁曽許能兒乃 己許太可奈之伎 (作者未詳 巻十四 三三七三) ≪書き下し≫多摩川(たまがは)にさらす手作(てづく)りさらさらになにぞこの子のここだ愛(かな)しき (訳)多摩川にさらす手織の布…
●歌は、「多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子のここだ愛しき」である。 東京都狛江市中和泉 玉川碑跡万葉歌碑(作者未詳) 20231119撮影 ●歌碑は、東京都狛江市中和泉 玉川碑跡にある。 (注)「玉川碑跡」の名称は「東京都指定旧跡 玉川碑跡 【指定年月】大正11年8月【所在地】狛江市中和泉4-14 【所有者】伊豆美神社」に基づく。 ●歌をみていこう。 ◆多麻河泊尓 左良須弖豆久利 佐良左良尓 奈仁曽許能兒乃 己許太可奈之伎 (作者未詳 巻十四 三三七三) ≪書き下し≫多摩川(たまがは)にさらす手作(てづく)りさらさらになにぞこの子のここだ愛(かな)しき (訳)多摩川にさらす手織の布で…
●歌は、「多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子のここだ愛しき」である。 東京都狛江市元和泉 小田急狛江駅北口広場万葉歌碑(プレート) 20231119撮影 ●歌碑(プレート)は、東京都狛江市元和泉 小田急狛江駅北口広場にある。 ●歌をみていこう。 ◆多麻河泊尓 左良須弖豆久利 佐良左良尓 奈仁曽許能兒乃 己許太可奈之伎 (作者未詳 巻十四 三三七三) ≪書き下し≫多摩川(たまがは)にさらす手作(てづく)りさらさらになにぞこの子のここだ愛(かな)しき (訳)多摩川にさらす手織の布ではないが、さらにさらに、何でこの子がこんなにもかわいくってたまらないのか。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川…
●歌は、「足柄の御坂に立して袖振らば家なる妹はさやに見もかも(四四二三歌)」と 「色深く背なが衣は染めましをみ坂給らばまさやかに見む(四四二四歌)」である。 埼玉県行田市藤原町 八幡山公園万葉歌碑(藤原部等母麻呂・物部刀自売) 20231119撮影 ●歌碑は、埼玉県行田市藤原町 八幡山公園にある。 ●歌をみていこう。 ◆安之我良乃 美佐可尓多志弖 蘇埿布良波 伊波奈流伊毛波 佐夜尓美毛可母 (藤原部等母麻呂 巻二十 四四二三) ≪書き下し≫足柄(あしがら)の御坂(みさか)に立(た)して袖(そで)振らば家(いは)なる妹(いも)はさやに見もかも (訳)足柄の御坂に立って袖を振ったら、家にいるそなた…
●歌は、「埼玉の小埼の沼に鴨ぞ翼霧る おのが尾に降り置ける霜を掃ふとにあらし」である。 埼玉県行田市埼玉 前玉神社万葉歌碑(万葉灯籠)(高橋虫麻呂) 20231119撮影 ●歌碑は、埼玉県行田市埼玉 前玉神社にある。 ●歌をみていこう。 一七四四歌の刻されている箇所をアップ 20231119撮影 題詞は、「見武蔵小埼沼鴨作歌一首」<武蔵(むざし)の小埼(をさき)の沼(ぬま)の鴨(かも)を見て作る歌一首>である。 ◆前玉之 小埼乃沼尓 鴨曽翼霧 己尾尓 零置流霜乎 掃等尓有斯 (高橋虫麻呂 巻九 一七四四) ≪書き下し≫埼玉(さきたま)の小埼の沼に鴨ぞ翼霧(はねき)る おのが尾に降り置ける霜を掃…
●歌は、「埼玉の津に居る舟の風をいたみ綱は絶ゆとも言な絶えそね」である。 埼玉県行田市埼玉 前玉神社万葉歌碑(万葉灯籠)(作者未詳) 20231119撮影 ●歌碑(万葉灯籠)は、埼玉県行田市埼玉 前玉神社にある。 (注)名称は前玉神社HPに記載されている「万葉灯籠」を踏襲いたしました。 ●歌をみていこう。 三三八〇歌の刻されている箇所をアップ 20231119撮影 ◆佐吉多萬能 津尓乎流布祢乃 可是乎伊多美 都奈波多由登毛 許登奈多延曽祢 (作者未詳 巻十四 三三八〇) ≪書き下し≫埼玉(さきたま)の津に居(を)る舟の風をいたみ綱(つな)は絶(た)ゆとも言(こと)な絶えそね (訳)埼玉の舟着き…
●歌は、「赤駒を山野にはかし捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ」である。 東京都府中市矢崎町 郷土の森公園万葉歌碑(宇遅部黒女) 20231118撮影 ●歌碑は、東京都府中市矢崎町 郷土の森公園にある。 ●歌をみていこう。 ◆阿加胡麻乎 夜麻努尓波賀志 刀里加尓弖 多麻能余許夜麻 加志由加也良牟 (宇遅部黒女 巻二十 四四一七) ≪書き下し≫赤駒(あかごま)を山野(やまの)にはかし捕(と)りかにて多摩(たま)の横山(よこやま)徒歩(かし)ゆか遣(や)らむ (訳)赤駒、肝心なその赤駒を山野に放し飼いにして捕らえかね、多摩の横山、あの横山を歩いて行かせることになるのか。(伊藤 博 著 「万葉集 四…
●歌は、「磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君が在りと言はなくに」である。 茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森万葉歌碑(大伯皇女) 20230927撮影 ●歌碑は、茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森にある。 ●歌をみていこう。 一六五、一六六歌の題詞は、「移葬大津皇子屍於葛城二上山之時大来皇女哀傷御作歌二首」<大津皇子の屍(しかばね)を葛城(かづらぎ)の二上山(ふたかみやま)に移し葬(はぶ)る時に、大伯皇女の哀傷(かな)しびて作らす歌二首>である。 ◆磯之於尓 生流馬酔木乎 手折目杼 令視倍吉君之 在常不言尓 (大伯皇女 巻二 一六六) ≪書き下し≫磯(いそ)の上(うえ)に生…
●歌は、「からたちの茨刈り除け倉建てむ尿遠くまれ櫛造る刀自」である。 茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森万葉歌碑(忌部首黒麻呂) 20230927撮影 ●歌碑は、茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森にある。 ●歌をみていこう。 題詞は、「忌部首詠數種物歌一首 名忘失也」<忌部首(いむべのおびと)、数種の物を詠む歌一首 名は、忘失(まうしつ)せり>である。 ◆枳 棘原苅除曽氣 倉将立 尿遠麻礼 櫛造刀自 (忌部黒麻呂 巻十六 三八三二) ≪書き下し≫からたちの茨(うばら)刈り除(そ)け倉(くら)建てむ屎遠くまれ櫛(くし)造る刀自(とじ) (訳)枳(からたち)の痛い茨(いばら)、そいつを…
●歌は、「昼は咲き夜は恋ひ寝る合歓木の花君のみ見めや戯奴さへに見よ」である。 茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森万葉歌碑(紀女郎) 20230927撮影 ●歌碑は、茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森にある。 ●歌をみていこう。 一四六〇、一四六一歌の題詞は、「紀女郎贈大伴宿祢家持歌二首」<紀女郎(きのいらつめ)大伴宿禰家持に贈る歌二首>である。 ◆晝者咲 夜者戀宿 合歡木花 君耳将見哉 和氣佐倍尓見代 (紀女郎 巻八 一四六一) ≪書き下し≫昼は咲き夜(よる)は恋ひ寝(ね)る合歓木(ねぶ)の花君のみ見めや戯奴(わけ)さへに見よ (訳)昼間は花開き、夜は葉を閉じ人に焦がれてねむるとい…
●歌は、「あぢさはふ妹が目離れて敷栲の枕もまかず桜皮巻き作れる船に・・・」である。 茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森万葉歌碑(山部赤人) 20230927撮影 ●歌碑は、茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森にある。 ●歌をみていこう。 ◆味澤相 妹目不數見而 敷細乃 枕毛不巻 櫻皮纒 作流舟二 真梶貫 吾榜来者 淡路乃 野嶋毛過 伊奈美嬬 辛荷乃嶋之 嶋際従 吾宅乎見者 青山乃 曽許十方不見 白雲毛 千重尓成来沼 許伎多武流 浦乃盡 徃隠 嶋乃埼ゝ 隈毛不置 憶曽吾来 客乃氣長弥 (山部赤人 巻六 九四二) ≪書き下し≫あぢさはふ 妹(いも)が目離(か)れて 敷栲(しきたへ)の 枕…
●歌は、「山の際に雪は降りつつしかずがにこの川楊は萌えにけるかも」である。 茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森万葉歌碑(作者未詳) 20230927撮影 ●歌碑は、茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森にある。 ●歌をみていこう。 ◆山際尓 雪者零管 然為我二 此河楊波 毛延尓家留可聞 (作者未詳 巻十 一八四八) ≪書き下し≫山の際(ま)に雪は降りつつしかすがにこの川楊(かはやぎ)は萌えにけるかも (訳)山あいに雪は降り続いている。それなのに、この川の楊(やなぎ)は、もう青々と芽を吹き出した。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より) (注)しかすがに【然すがに】副詞:そ…