字を読めるようになった頃、家に置いてあった本の一部は教えられた通りに読もうと思っても正しく読めないのが不思議だった。その最も初期の体験がこの『魔法の杖』という本を開いたときであろう。ときどき、改めて読んでみたいと思っていたが、昭和二十一年 (最初に出版されたのは本当は昭和十六年のことらしい) に太田黑克彥という人がジョン•バカン——アルフレッド・ヒッチコック監督の英国時代の作品でマデリーン・キャロルがヒロインを演じた映画『三十九夜』(The 39 Steps, 1935) を真っ先に思い出してしまう——の唯一の児童向け小説 “The Magic Walking Stick” (1932) を翻…