『忘れられた巨人』(The Buried Giant, 2015) は、カズオ・イシグロ、7作目の長編小説です。これまでの作品と違い、三人称の語りになっているところに新鮮味を感じます。なかには登場人物が前面に出てきて、主観的に語る章もあります。さまざまな視点から物語をみつめることができる、ある意味実験的な作品だと思います。その効果は絶大で、ファンタジーという霧を帯びた―恋愛小説とも、歴史小説とも、冒険物語ともいえる―複合的な世界観において、個人の「記憶」や、集団の「記憶」をどう扱うべきか、深く考えさせる作品です。 忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)作者:カズオ イシグロ,Kazuo Ish…