「記憶というのは、思い出されるごとに独自のものになるんだ。絶対的じゃない。実際の出来事をもとにした話は、しばしば事実よりも創作と重なるところが大きい。創作も記憶も、思い出され、語りなおされる。どっちも話の一形態だ。話という手段を介して、人は知る。話という手段を介して、たがいを理解する。だけど現実は一度きりしか起こらない」 * 「それで、どんなふうに終わったの?」わたしは言う。「前の彼女とは」 「ろくにはじまってもいなかった」彼は言う。「たいした付き合いじゃなかったし、一時のことだった。」 「でも、そう思って付き合いはじめたわけじゃないでしょう?」 「付き合いはじめたときも、終わったときに劣らず…