小高町の立入禁止が解除されたのは意外に早く、震災の翌年の4月には日中の出入りが自由になった。小高の中心部の被害にも衝撃を受けたが、まだ予想の範囲内ではあった。けれど福浦の惨状を目の当たりにした時の衝撃はそれとまるで違った。世界が変わっていた。あの時の呆然とした心境をどう言葉にすればいいかわからない。 「福浦が海に戻った」と話には聞いていたが、実際に目の当たりにすると、「風景が死んだ」としか言いようがなかった。生き物の気配がまるでない。幽冥界そのもののを目にしているような。コンクリート製のポンプ舎が破壊されたのに、強固な造りとは思えない水門が残っているのが不思議だった。 防波堤が破壊され、防風林…