「必殺シリーズ」のスタッフが送る時代劇シリーズ。
1990年(平成2)7月6日より9月28日まで全14回(通常の放送では13回)にわたって放送された。
1702年(元禄15)に設立され実在した「中町奉行所」の同心たちが、実は法では裁けぬ悪を闇で成敗していた、と言う奇抜な設定でスタートする。よって、1970年代に「必殺シリーズ」の亜流作品として注目を集めた『影同心』を必殺シリーズのスタッフが作るとこうなるぞ、と考えても良いだろう。
キャスティングには、当時「必殺シリーズ最終作」とされていた『必殺剣劇人』に出演した近藤正臣と田中健のコンビに加え、清水健太郎、神崎愛を起用。史実上の人物で、実際に中町奉行所初代奉行に任命された「丹羽遠江守長守」役には、丹波哲郎を抜擢。重厚な演技が緊張感をもたらしている。
スタッフ面では保利吉紀、高山由紀子、中村勝行、篠崎好、下飯坂菊馬といった必殺シリーズでお馴染みのベテランライター陣の脚本を、必殺シリーズの名カメラマンでもある石原興、映画『虹の岬』で知られる奥村正彦、『鬼平犯科帳』でお馴染みの高瀬昌弘、萬屋錦之介主演作品の時代劇などで知られる大洲斎らが演出。各キャラクターの個性を引き出し、落ち着いていながらもメリハリのある良質な作品に仕上げている。
最終回は2時間スペシャルで放送され、再放送用として各放送局へ配られた場合には、前後編に分かれて放送される。
南原幹雄の原作小説を参考にしながら、物語を作っている。
劇中音楽は「必殺シリーズ」の曲を流用している。
花のお江戸は呉服橋 悲しみ抱いて北町へ
小雨に濡れる数寄屋橋 憎しみ下げて南町
それでも心は晴れやせぬ……
渡ってみなさい鍛冶橋を 牢屋も無ければ白州も無い
裁きは無用の 中町へ
だが この奉行所の命 わずか17年
その記録は 一切残っていない
(語り:黒沢良)
六代将軍・徳川綱吉の治世。生類哀れみの令が公布され、人々の生活は困窮していた。
南町奉行所同心・水流添我童(近藤正臣)は、頭脳明晰、剣技も免許皆伝の腕前であり同輩からも一目置かれる優秀な同心だが、堅物で融通が利かない上に妻を失ったことで心を閉ざし、上役からは疎まれていた。その水流添が3年間かけて探索した盗賊・雁金の辰蔵(岩尾正隆)一味を捕らえるために罠を張っていたのだが、寸でのところで逃がしてしまう。
一方、北町奉行所同心・小暮楽太郎(田中健)は非番の月であることを良いことに、女郎と共に出会い茶屋へと向かっていた。この男、頭も切れて剣の腕前も立ち、奉行所では広く知られるほどの達人であるにも関わらず、根っからの快楽主義者であるために昼行灯を決め込み、女と遊ぶことだけを生きがいにしているのだ。
女と出会い茶屋へ入る寸前に女に逃げられてしまった小暮は、一人の人物に声を掛けられる。丹羽遠江守長守(丹波哲郎)と名乗ったその男は、小暮に2両を貸し与えた。その金で女郎を買い、女遊びに興じる小暮であったが、ただならぬ気配を感じ取り刀を手に取った。すると突然、全身黒装束の人間が短刀で襲い掛かってきたのだ。着るものも着ずに応戦する小暮。そして、黒装束の人物の他にも気配を感じた小暮はその人物にも刀を向ける。するとそこには、先ほど金子を都合してくれた丹羽遠江守が佇んでいた……。
雁金の辰蔵一味を取り逃がした水流添は、一味が姿を消したすぐ近くに寺があることに着目。盗賊は寺を盗人宿に利用していると確信し、上役である倉本(原口剛)に寺社奉行への寺社内探索許可申請を願う水流添であったが、全く相手にはされず不満を募らせるのであった。
佃島で漁師をしている多吉(清水健太郎)は、丹羽遠江守に魚を屋敷まで運んでくれと頼まれる。屋敷に入っても誰もおらず、勝手口に入った多吉は、突然黒装束の人間に襲われる。命が無いと思った多吉は潔く死を覚悟するが、そこに現れたのは何と丹羽遠江守。人を傷つけて寄せ場送りになったことが3回、女子供が溺れそうになっているのを身を呈して助け出したのも3回……丹羽遠江守は多吉の過去を全て知り尽くしていたのだった。
何事も上手く行かない水流添は、行き着けの居酒屋・篠むらで一人酒を飲んでいた。女将であるお篠(神崎愛)に傘を借りて帰る帰り道、疑惑の寺である無明堂寺の住職・行庵上人(北九州男)とすれ違う。そして竹やぶの中で突然、黒装束の人間に襲われたのだ。雨の中、剣を抜き応戦する水流添と剣を交えた瞬間、顔を覆う装束が取れて面が露になった。何と、篠むらの女将であるお篠ではないか。その真実を調べるため、篠むらへ戻りお篠が自分の命を狙った理由を詰問する水流添。「訳は俺が話そう」
現れたのは丹羽遠江守だった。
釈然としない水流添に、伊賀の忍だったお篠を使って腕試しをした理由を話し始める丹羽遠江守。長崎奉行であった丹羽遠江守は、突然幕閣により江戸へ呼び戻された。長崎奉行の任期が終われば、やがては大目付へと昇格するのが通例なのだが今回は違った。江戸に新たに奉行所が開設されるのだ。南北の真ん中に新しく奉行所が出来、その名を「中町奉行所」と言う。丹羽遠江守はその初代奉行に任ぜられたと言うのだ。しかし、中町奉行所の面々は南北両奉行所で使い物にならないようなガラクタ同心たちが集まってくることは目に見えていた。丹羽遠江守はある思いを秘め、優れた同心が欲しかったのだ。腕が立ち、頭が切れる同心が……特に水流添のような優秀な同心を喉から手が出るほど欲していた丹羽遠江守は、その力量が本物かどうか試したのだ。しかし水流添は、支度金50両、扶持も南町の倍という破格の条件には目も向けず、静かにその場を去るのであった。
独自に寺を探索する水流添であったが、そのことが寺社奉行に知られ倉本からお叱りを受ける。その態度に水流添は反発するが、信頼する上役である葛西(滝田裕介)に諌められ黙り込むしかなかった。事なかれ主義の南町に見切りを付けた水流添は中町へ足を運び、丹羽遠江守に寺社奉行への掛け合いを依頼する。丹羽遠江守がどれだけの人物なのか、見極めに来たのだ。そして、水流添の希望が叶った場合は、丹羽遠江守の片腕になることを約束する。
丹羽遠江守の揺さぶりで動き出した寺社奉行・脇坂淡路守(菅貫太郎)は、西鶴寺で辰蔵一味に江戸から離れるよう指示。拉致してきた女たちを始末した辰蔵らは、江戸から離れる準備を始める。
寺社奉行、住職、盗賊の3つがグルになっていたことが判明したことにより、水流添は約束通り中町奉行所への参加を決める。そこで、幕府の財政が厳しい最中にどうして町奉行所が開設されるのか……丹羽遠江守はゆっくりと口を開いた。
「幕府の台所の苦しい最中に、幕閣がなぜ新しい奉行所を作ったのか……なるほど大義名分はあるんだが、本音は違うな。中町奉行に御上から降りる年間の費用ってのは莫大なもんだ。しかしな……御用達商人は決まっている。米・味噌・醤油・油は言うに及ばず、畳・障子・襖の家具類から、紙・筆・硯に至るまで御用達の面々の顔ぶれが揃っているんだ。そいつらから幕閣に流れる金ってのは莫大なものよ。幕閣は……本当に腐りきっている!そんな連中からな……初代奉行を仰せつかるとは、俺も甘く見られたものよのぉ……何でもいう事を聞くと思っていやがるんだ。向こうがそれならな、こっちもそれなりの意地を通してみてえじゃねえか!」
そして丹羽遠江守は、続けてこう話す。
「お前さんたち三人に限り、悪は叩き斬る。いずれ露と消えるのが中町の定めならば……裁きの証などは残すことはねえだろう。それが中町の意地……裁きは無用だ」
水流添、小暮、多吉の「ガラクタ」たちは江戸を出る寸前の盗賊を全滅させた後、奉行と坊主を叩き斬るために西鶴寺へと乗り込む。
「問答無用!」
制作 | : | 遠藤慎介(テレビ東京) 桜井洋三(松竹) |
チーフプロデューサー | : | 江津兵太(テレビ東京) 桜林甫(松竹) |
プロデューサー | : | 小川治(テレビ東京) 中嶋等(松竹) |
主題歌 | : | 「愛のリフレイン」作詞:大津あきら/作曲:浜圭介/編曲:美野春樹/歌:神崎愛 ビクター音楽産業K・K |
ナレーション | : | 黒沢良 |
参考文献 | : | 南原幹雄 作品より |
撮影 | : | 石原興 秋田秀継 藤原三郎 |
照明 | : | 林利夫 |
編集 | : | 園井弘一 |
助監督 | : | 酒井信行 |
話数 | サブタイトル | 脚本 | 監督 | ゲスト |
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1 | 裁きは無用! | 保利吉紀 | 石原興 | 菅貫太郎・キラーカン・岩尾正隆 |
2 | 私怨無用の闇始末! | 保利吉紀・高山由紀子 | 石原興 | 遠藤太津朗・戸浦六宏 |
3 | 死を待つ男の危険な賭け! | 中村勝行 | 奥村正彦 | 牟田悌三・服部演之・五味龍太郎 |
4 | 濡れ衣はらして候 | 篠崎好 | 奥村正彦 | 河原崎健三・黒田福美・玉生司郎 |
5 | 大奥に棲む魔物 | 下飯坂菊馬 | 高瀬昌弘 | 赤座美代子・黒部進・松岡知重 |
6 | 不幸を背負った女 | 和久田正明 | 高瀬昌弘 | 西川峰子・山本昌平 |
7 | 闇に消えた女 | 田上雄 | 大洲斎 | 赤塚真人・高沢順子・遠藤征慈 |
8 | 禁断の愛に泣く女 | 鴨井達比古 | 大洲斎 | 志垣太郎・山内としお・内田勝正 |
9 | おかめの涙 | 古田求 | 原田雄一 | ジョニー大倉・神津はずき・片桐竜次 |
10 | 死を招く愛の地獄 | 佐藤五月 | 原田雄一 | 池波志乃・高峰圭二・三上真一郎 |
11 | 闇の元締を消せ! | 和久田正明 | 津島勝 | 佐川満男・草薙幸二郎 |
12 | 非情の影狩り! | 和久田正明 | 津島勝 | 根上淳・清水めぐみ |
13 | 我楽多たちの最後の賭け! | 野上龍雄・中原朗 | 石原興 | 沖田浩之・川島なお美・浜田晃・青木義朗・江見俊太郎 |