新必殺仕置人 → 新必殺からくり人東海道五十三次殺し旅 → 江戸プロフェッショナル必殺商売人
人気時代劇「必殺シリーズ」第11弾。からくり人シリーズ第3弾でもある。
1977年(昭和52年)11月18日より1978年(昭和53年)2月10日まで全13回放送。
第10弾『新必殺仕置人』で、一つの区切りを迎えた必殺シリーズは、新たな挑戦を試みる。これまで江戸を舞台としていた必殺シリーズだが、「悪人は江戸ばかりではなく、日本全国に存在する」とばかりに「旅モノ」のエッセンスを加え、殺し屋が各宿場の恨みを晴らしていく「殺し旅」のシリーズとなった。
単純に江戸を離れて殺しを行うのではなく、依頼人があり、その依頼を遂行しながら各宿場を回ることが縦糸となっている。そして、依頼人として登場するのが、江戸時代の有名絵師である「安藤広重」である。安藤広重が江戸から京都の各宿場を描いた「東海道五十三次」には、火で炙ると悪人が血の色とともに浮かび出る。この絵をもとに、各宿場の悪人を一掃していくというのが本作の内容だ。
キャスティングは『必殺からくり人』の仇吉チームに類似した形で結成。「もしも、からくり人のメンバーが生き残り、裏稼業を続けていたら……」というニュアンスで人物造形がなされており、1話、2話、最終話と参加回数は減ったものの、メインライター早坂暁のケレン味たっぷりのストーリーも用意されている。
本作では、新たに古今亭志ん朝、近藤正臣らが参加。特に、古今亭志ん朝扮する「噺し家塩八」の殺し道具は、シリーズ前代未聞の「口」。トークと口の動きで相手を催眠状態にしてしまうという、突飛な殺し技を披露している。近藤正臣は高野長英に扮し、必殺シリーズで初めて実在人物を殺し屋として登場させている。
スタッフ面では、早坂暁が1話、2話、最終話のみに留まったが、その他の脚本を野上龍雄、安部徹郎、村尾昭といったベテランの実力派が手がけており、新必殺仕置人のような派手ではなく、地味ながらも落ち着きのある作品が目立つ。それら脚本を、工藤栄一や蔵原惟繕が丁寧に演出。奇をてらったような斬新な演出は施されてはいないが、その分拘りを持った上大変手堅く、その上俳優陣の演技も重なることで、さながら一級の時代劇映画を見ているような感覚に陥る。それに追随する形で、長年時代劇で助監督を務めている南野梅雄も、担当話で工藤、蔵原両監督を意識した演出を行っている。また、森崎東が必殺初参加というのも見所の一つと言えるだろう。
初の旅モノだが、結果的には成功したと言えるだろう。本作においても続編が作られることとなり、ここで確立した「非主水シリーズは旅モノ」という図式がシリーズ末期まで続いていくこととなる。
人の一生は旅に似ているといいますが
ほんとにそうでございますねぇ
わたくし安藤広重が旅を描きました東海道五十三次
綺麗ばかりで少しも人のためいきが
聞こえてこないとか…
そんなことはございません
一枚一枚にせっぱつまった怨みとつらみ
つまりは殺してもらいたい人間を
そっと描き込んである仕掛け…
お艶さん よっくご覧の上東海道五十三次殺し旅
よろしくお願い致します。(作:早坂暁/語り:緒形拳)
夜の川。新内流し・泣き節お艶(山田五十鈴)が語る哀切に満ちた「泣き節」の声色に、怒鳴り散らす悪徳商人・備前屋(牧冬吉)。その時、彼女から死の宣告が備前屋に向けられる。唖然とする備前屋に向かって、連れの男・ブラ平(芦屋雁之助)の口から火柱が走り備前屋は炎に包まれ絶命し川に落下。何事も無かったように立ち去るお艶一同だが、その様子を人気浮世絵師・安藤広重(緒形拳)が静かに見つめていた。
小さな芸団「天保太夫一座」では泣き節お艶が座長を務め、火吹き芸を得意とするブラ平*1をはじめ、噺し家の塩八(古今亭志ん朝)、お艶の娘で駒芸を得意とする小駒(ジュディ・オング)が芸を披露していた。そんなある夜、一人の青年が一座に逃げ込んでくる。奉行所の役人に追われており、足に傷を負っていた青年(近藤正臣)は自らの名を蘭兵衛と名乗り匿ってもらうようお艶に頼みこみ、一座に隠れ住むことになる*2。
しかし突然、天保太夫一座は奉行所から江戸所払いを命じられる。時の老中・水野忠邦による天保の改革の一環として、風紀を乱す興行は厳粛なご時勢に合わぬとし、一座は処罰を受けてしまったのだ。そして、お艶たちが奉行所で調べを受けている間、一座に目をつけていた役人は家捜しを始め、ついには一座に火を付け何もかも燃やし尽くしてしまう。全てが焼失した一座を見て呆然とするお艶のもとに突然、安藤広重が現れる。
お艶の裏の顔を知っている広重は、その腕前を見込んで驚くべき依頼を持ちかけてきた。東海道五十三次を完成させるため各地を訪れていた広重は、各宿場で極悪非道な悪事を幾つも目撃していたのだが、一介の絵師である自分に悪を正す力などはなく、その代わりに五十三次の絵の中に謎解きとして悪事に関わるヒントを書き込んでおいたのだ。絵を火にかざすと、悪事に関わるヒントの部分が真っ赤な血の色であぶりだされる仕組みになっている。これをお艶に託し、各宿場の悪を討って欲しいというのだ。江戸所払いを受け、一座を焼かれてしまったお艶に断る理由はなく、広重の依頼を快諾する。
最初の仕事である「日本橋」を済ませた一同は、蘭兵衛を加え京都までの東海道五十三次殺し旅へと出発していく。
続編に「必殺からくり人富嶽百景殺し旅」がある。