翔べ!必殺うらごろし → 必殺仕事人 → 必殺仕舞人
人気時代劇「必殺シリーズ」第15弾。必殺シリーズにおいて、最もメジャーなタイトルである。
1979年(昭和54年)5月18日より1981年(昭和56年)1月30日まで全84回にわたって放送された。
前作「翔べ!必殺うらごろし」の不調によりシリーズ打ち切りを決定したスタッフが、原点である「必殺仕掛人」と、必殺を代表する人気キャラクター「中村主水」を融合させた作品でシリーズに幕を閉じようとしたのが、この「必殺仕事人」である。ところが、放送中に人気が再燃。結果、必殺シリーズとしては異例のロングランとなり、その後の『必殺ブーム』を巻き起こす起爆剤となった作品である。
三田村邦彦扮する人気キャラクター、飾り職の秀が初登場した作品。当初は飾り職人が使うノミを荒々しく体に突き刺す、血気盛んなチンピラとして描かれていた。また、元締候補には丹波哲郎などが挙げられたが、中村鴈治郎が決定した*1。
29話「新技腰骨はずし」において、左門の殺し技が変更。胴太貫による剣技から、相手の体を真っ二つに折る技へと変化した。当初はレントゲン映像が入る予定だったらしい。また、秀の殺し技が簪に変更になったのも、この頃からである。
シナリオ段階では、鹿蔵は新必殺仕置人に登場する元締・虎の兄だという設定があったが、放送中それについて語られることはなかった。
元締・鹿蔵役の中村鴈治郎が6話で降板したのは、体調不良からである。その後は、17話、20話にゲスト出演している。
一掛け二掛け三掛けて
仕掛けて殺して日が暮れて
橋の欄干腰下ろし
遥か向こうを眺むれば
この世はつらい事ばかり
片手に線香 花を持ち
おっさん おっさん何処行くの
私は必殺仕事人 中村主水と申します
「それで今日は、何処のどいつを殺ってくれと仰るんで?」
(作:早坂暁/語り:芥川隆行 藤田まこと)
年の瀬も押し迫った夜、強大な財力により権力者にコネを巡らせ、金相場、米相場を私物化していた蔵前の豪商、叶屋惣兵ヱ(国一太郎)が殺害された。生前の叶屋の所業から、これはこの世では晴らせぬ恨みを晴らす仕業人、商売人の仕事だと噂が立ち、その後奉行所は取り締まりを強攻。江戸から闇の仕事師が一掃された。
江戸から十里離れた八王子に左遷されていた中村主水(藤田まこと)は、江戸の喧騒から解き放たれ、退屈な日々を過ごしていた。ところが突然、江戸町奉行所から江戸に戻るよう命令が来たのである。左遷されてから半年、手柄を1つも立てていないのになぜ……不審に思う主水であったが、せん(菅井きん)とりつ(白木万理)を残し、一人江戸へ戻ることになる。
煩わしい姑と嫁から開放され、支度金十両まで手に入れた主水は定町廻りに復帰。市中見回りの途中、勘定奉行所書き役・戸ヶ崎重内(岸田森)の弟・重次郎(内田勝正)が暴れているところに遭遇するが、面倒に巻き込まれては嫌だと見て見ぬふりをする。その時、主水は謎の老人に出会う。老人は突然、戸ヶ崎兄弟の命を十両で引き受けて欲しいと言い出し、更には「御定法では晴らせぬ恨みを晴らすのが、あなたの仕事ではないのですか?中村さん…」と、まるで主水の正体を何から何まで見破っているかのような口ぶりで語りかけてきたのだ。主水は冷や汗をかくが、それでも白を切り通し、その場を何とかやり過ごすのであった。
その夜、主水はある浪人に狙われる。その浪人・畷左門(伊吹吾朗)は、自分を仇と狙う家老・権藤と主水の顔が瓜二つであることから勘違いし、主水を狙ったのだ。左門は愛妻・涼(小林かおり)を陵辱の手から守るため、権藤の伜を斬り、とある藩から逐電した身であることを話し、主水に誤解を解いてもらうのだった。そして、主水はその場で、裏切り者としてある人物から命を狙われていることを左門から聞かされ、驚くのだった。
そこで、主水は以前、八丁堀の自宅を嗅ぎまわっていた半吉(山田隆夫)に目を付ける。半吉に脅しをかけ、その半吉が飛び込んだ先は小さな将棋会所。その夜、将棋会所に左門と二人で訪れた主水は、意外な光景を目にする。勘定奉行・稲葉が将棋会所から出てきたのだ。主水は、なぜ老人が自分の正体を知っていて、なぜ左門に自分の命を狙わせたのか、これまでの真相を明らかにするため将棋会所に入っていった。
謎の老人・鹿蔵(中村鴈治郎)は、裏稼業歴50年の大ベテランであり、現勘定奉行である稲葉の腹心を長年務めてきた人物だ。闇の仕事師が一掃された江戸において裏稼業を続けるため、鹿蔵は主水の腕が欲しくて欲しくて仕方が無かった。そこで勘定奉行・稲葉を動かし、主水を左遷されていた八王子から江戸へ呼び戻したのだ。鹿蔵は、叶屋を始末したのは自分であり、それを依頼してきたのが戸ヶ崎で、今ではそのネタで稲葉を強請り、おかげで稲葉は何も出来ずに困っているという現状を話すのだが、主水は裏稼業への復帰を拒否する。主水は裏稼業で死んでいった仲間たちの無残な死に様を語り、その姿は怯えきっていた。そんな主水に、鹿蔵は語る。
「三途の川の水音がすぐ傍で聴こえるようになってくると、人は皆、昔のことを考えるものだ。ワシは何をやってきた。今までワシは何をやってきたのだとね……そんなとき、冥途へ持って行く土産が無いというものは、酷く寂しいものなんだ。中村さん、お前さんは気の毒なお人だ。何もかもなくしてしまったらしいが、ワシにはある。胸を張って、冥途へ持って行く土産がね……これだ。この手は叶屋を殺った手だからよ……」
鹿蔵の独白に主水は言葉が出ない。その時、外で話を聞いていた左門が入ってきた。鹿蔵の独白に心を打たれたのか、「私はもう逃げるのには飽きた。あなたのように、一生を戦い続けながら、己の宝を守っていきたくなった」と仕事人になることを宣言。大量の小判をちらつかせる鹿蔵に、主水も「一回だけだぜ」と裏稼業に復帰することを宣言するのだった。
戸ヶ崎重次郎との戦いの中、もう一人の仕事人の影を感じ取った主水と左門は、重次郎に投げつけられたノミをきっかけに、新たな仕事人とめぐり合うことになる。
続編に「新必殺仕事人」がある。
*1:丹波哲郎は第4話でゲスト出演している。