文芸評論家。1948年4月1日、山形県生まれ。 東京大学文学部仏文学科卒。国立国会図書館勤務を経て、現在明治学院大学国際学部教授。 主な著書に『アメリカの影』『日本風景論』『「天皇崩御」の図像学』『言語表現法講義』『敗戦後論』『加藤典洋の発言』『可能性としての戦後以後』『戦後的思考』『日本の無思想』』『日本人の自画像』『ポッカリあいた心の穴を少しずつ埋めてゆくんだ』『テクストから遠く離れて』『小説の未来』などがある。
など多数。
ξ 心的なものを、意識的なものと無意識的なものに区別することは、精神分析の大前提である。 この区別に基づくことで精神分析は初めて、心的な生において頻繁にみられる重要な病理学的なプロセスを理解し、科学の枠組みにおいてこれを分析する可能性を確保できるのである。 言い換えると、精神分析では、心的なものの本質は意識のうちにはないと考えている。・・・ 哲学的な素養のある多くの読者にとっては、意識的でない心的なものという理念は非合理的で、基本的な論理法則に反するものと思われるだろうし、理解しがたいものであろう。 しかし読者がそう思うのは、病的なものは別として、催眠術と夢の諸現象を研究したことがないためであ…
読んだ本 加藤典洋『人類が永遠に続くのではないとしたら』講談社学芸文庫 (2024) 松岡正剛/ドミニク・チェン『謎床』晶文社 (2017) 門井慶喜『文豪、社長になる』文藝春秋 (2023) エドマンド・バーク『崇高と美の観念の起源』みすず書房 (1999) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 落合陽一氏と植松伸夫氏との対談が面白かった。 なぜ最近のゲーム音楽は新星が生まれてこないのか。 パイオニアの植松伸夫氏が語った。 www.youtube.com 財閥には三菱、三井、住友などあるが、ゲーム音楽に例えるならば、それは植松伸夫、すぎやまこう…
「もうひとつのブログ」に、新しい記事をアップしました。 これは 劇的に変化する共同体と、心地よく安定した共同体で、「二重」に生きること その2/2 の続きです。 yusakumf.hatenablog.com
これは 劇的に変化する共同体と、心地よく安定した共同体で、「二重」に生きること その2/2 の続きです。 ξ 資本制社会の劇的な変化に対して、「二重の層」となり得るほどの、晴れがましさと心地よい緊張をもたらす安定がほとんど失われた20世紀末 その不安と焦燥を打ち消そうとするかのように、精神医療の世界にカウンセリング・ブームが起こりました。 心を取り扱うこと、心をコントロールすることが自分に対しても他者に対しても「万能感」をもたらす魅力が大きかったようです。*1 「心理学化」の海を離れる ξ 自己免疫疾患による闘病生活で一番困ったのは、寝たり起きたり、杖をついたりのまったく自由にならない身体と、…
テクストから遠く離れて (講談社文芸文庫) 作者:加藤 典洋 講談社 Amazon いまさらながら加藤典洋の『テクストから遠く離れて』を読みだす。こちらも噂、いやそれ以上におもしろい。 とかく人は、思想、文学、音楽など新しいものをありがたがるが、ほんと、それでいいのかと。なら古いのはダメなのかと述べる作者。思想や主義を紅茶キノコやタピオカなどとといっしょくたに流行扱いしていいのかと。 「テクスト論の致命的な弱点がここにある。それは、ポストモダン思想とりわけポスト構造主義の思想一般と同様、他の思想、他の批評理論の価値を否定し、これを相対化することは得意だが、自分から新しい普遍的な価値、批評原理を…
岩波書店、2019年。 書籍目次 僕の本質 Ⅰ 大きな字で書くこと 斎藤くん 大きな字で書くと 井波律子さんと桑原『論語』 森本さん 日本という国はオソロシイ 船曳くん 父 その1 父 その2 父 その3 父 その4 父 番外 多田謡子さん 橋本治という人 青山 毅 中原中也 その1 中原中也 その2 中原中也 その3 ブロックさん 寺田透先生 安岡章太郎さん はじめての座談会 カズイスチカ 久保卓也 森嶋通夫 秋野不矩さん 私のこと その1――バルバロイ 私のこと その2――東京のおばさん 私のこと その3――勇気について 私のこと その4――事故に遭う 私のこと その5――新しい要素 私の…
読んだ本 引用元:版元ドットコム ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー メモ なし ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 不確実性の世界において、大数の法則 (試行回数が限りなく多くなると統計的に確率が算出されるものに近似する) のようにはいかない、大きな災害 (原発事故など) リスクを抱えるこの世界において、我々は何をするべきなのか、という問題提起のもと本書は進む。 著者は「近代二分論」 という案を提出する。 世俗的な言い方に直せば、「成長派 / 脱成長派」 である。 問題点として、両者は対話ができないこと…
村上春樹『海辺のカフカ』 書評 (2002)「『海辺のカフカ』は傑作か」 論文 (2003) 「『海辺のカフカ』と『換喩的な世界』」 編著 (2004) 「『海辺のカフカ』 心の闇の冥界〈リンボ〉めぐり」 新書 (2015) 「換喩と異界と『全体的な喩』」 村上春樹『海辺のカフカ』に関する主要な先行研究としては、反 (脱)=テクスト論者 である加藤典洋氏と、テクスト論者である (/であった) とされる国文学者の小森陽一氏による先行研究の二つが挙げられる。 まず、文芸評論家である加藤典洋氏による『海辺のカフカ』論には以下の四つがある。 ① 書評「『海辺のカフカ』は傑作か:村上春樹の最新長編を3氏…
読んだ本 引用元:版元ドットコム 引用元:版元ドットコム ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー メモ なし ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 『情報生命』はタイトルから分かるように、生命と情報に関する内容が詰まっている。 読み物としては面白いが、体系的な本ではないので遺伝子をめぐる論争の整理がつかない。 松岡正剛氏は『利己的な遺伝子』の構想がこれからも生きていくことを示唆したが、個人的には、人間の行動よりも言葉の始源に関心がある。 遺伝子に関する刺激的な内容であふれているが、今日はなかなか頭を悩ませた。 …
ξ ここしばらく関東は今年最高の暑さのなかにいる。 わざわざ外出してマゾ的に身体を酷暑にさらすなんてやめて エアコン効かせた室内でストレッチ、さっぱり汗をかき 昼は、いつもよりしょっぱくした、うどん、ラーメン、中華風炒め物の類を食べる。 いまはとても旨く感じる。 冬にこんなに味を濃くしたら頭が痛くなるか。 昔、北国の真夏、夜中に寒さでゲホゲホ咳きこみ、あわてて閉め忘れた窓を閉めにいった記憶がある。 いまは毎年、夜間もエアコンつけっぱなし、あの頃を夢のように思いだす。 こんな日はとにかく無理をしない、真っ昼間のビールも悪くない、パートナーや子供たちと狭っ苦しくガヤガヤ、時間つぶしをしているのがち…
加藤典洋の「小説の未来」を読んだ。 小説の未来 (講談社文芸文庫) 作者:加藤 典洋 講談社 Amazon 以前に同じ著者の書いた「世界をわからないものに育てること」を読んだときに、柴崎友香の「わたしがいなかった街で」の読み方を紐解いた批評が面白く、この「小説の未来」にも自分の読んだことのある作品に関する批評がいくつかあったので読んでみた。自分は小説を読むときに、部分的にというか、ある一部の場面や描写に心が惹かれることこそあれど、小説全体として何を言わんとしているかといった構成・構造的な作者の狙いを捉える読みはできていない自覚があって、これまでにそういった読み方を解説している本などを読んでみた…
アメリカ 村上春樹と江藤淳作者:坪内 祐三扶桑社Amazon サブタイトルの「村上春樹」に心を引かれてたまたま手に取った本。開いたら『ライ麦畑でつかまえて』の話をしており、ちょうど自分が『赤頭巾ちゃん気をつけて』を読んだばかりで、『ライ麦畑』について考えていたところだったので、読んでみようと思った。 『風の歌を聴け』で村上春樹に心酔した本書の著者の坪内祐三。その後、小説作品は追わなくなったものの、村上春樹によるフィッツジェラルド『偉大なギャツビー』の翻訳を待望していたという。 しかし村上春樹が翻訳したのはサリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』。それはなぜか? というのが本書の前半の章の執筆動機で…
自分の心と身体がそれまでとは違う状態に入ったのだなと如実に感じられるようになったのはここ5、6年のことでしょうか。現実の厳しさに比べてやや軽薄な感じがする言葉ですけど、まさに「老いのリアル」みたいなものがひしひしと迫ってくるのを、なかば驚きながら受け止めつつ、それでも往生際悪くあれこれ抗うことを試してきた……そんな感じがします。そうやっていろいろと試しているうちに、自分と自分を取り巻く人々や社会との関係、というより自分の側からの周囲の人々や社会への捉え方がずいぶん変わったように思います。平均寿命を持ち出すまでもなく、自分がこの世の中にいられるのはおそらくあと20年もありません。それどころか、と…
日本人は大事な場面で失敗する人々です。細かい事にはうるさいですが、肝心な場所でいつも誤るのです。それゆえ結局は大したことを成し遂げられません。大局で過(あやま)つは日本人の性(さが)です。 日本人は細かいことを律儀に守ります。以前にこんな事がありました。スーパーでセルフレジを使用しようとした時のことです。何故かその日に限って店員が通せんぼをするのです。どうやら入口と出口の区別が出来たようです。といっても空いている時間帯なのでレジの置いてあるスペースはガラガラです。どちらから入っても構わないように見えます。状況に応じて柔軟に対応すればいいのに日本人にはそれが出来ないのです。店員は鬼の形相で仁王立…
飯田朔さんに『「おりる」思想』をいただきました。 おりるに対するイライラ おりたくてもおりられない 自分はおりられたのか? 飯田さんは文筆家として、フリーペーパーやwebで映画評論や文芸評論を書いています。大学在学中に評論家の加藤典洋の元で文学や映画評論を書くようになり、フルタイムで働くのは難しいと思った結果、就職せずに非常勤で塾の先生をしたり、スペイン留学に行ったりしたそうです。飯田さんは10年ほどそういう「何者」でもない「なんでもない人」として過ごし、「社会が提示してくるレールや人生のモデルから身をおろし、自分なりのペースや嗜好を大事にして生きる(P.24)」おりる生き方をしてきました。こ…
気がつけばなんだかだいぶ暖かで、こうしてこの3ヶ月あまり、ぐちゃぐちゃにしてしまったスケジュールを立て直している途中の私は花見などできるのだろうか。 少しずつ読み進めている鶴見俊輔『期待と回想』(ちくま文庫、2022年)がおもしろい。/「伝記というのは、自分をクッションにして使い、相手をどういうふうに描くのかに受動的自己表現の方法があるんです。」と語りだす伝記についての章、「無所有の側からの国家批判というものがあって、それがアナキズムの意味だと思う。[略]いまは政府の国家、官僚の国家なんです。官僚の政治学ですね。それを無所有の観点からもう少し広げて、別の公というものをつくっていかなきゃいけない…
【登山】なぜ山に登るのか?山が好き #002/Why climb mountains? Japanese Mountains【PENTAX k3ii/k1】 動画 YouTube https://www.youtube.com/watch?v=imbI9DyzlUo 『書くことの不純』 角幡唯介/著 中央公論新社 2024年発行 序論 探検って社会の役に立ちますか? より 1 ツイッターをはじめてみた 20年も同じことをつづけていると色々飽きがくる。SNSをはじめたのも、この一連の”飽き”の流れのなかでだった。それまで日常的な雑文はプログに書いていたが、雑誌やウェブでのエッセイ系の連載や書評の…
最近、なんだか調子が悪い気がする。運動や食事、睡眠は乱れていない 体調が悪いとか、こころの不調だとかそういうことではないように思うけど、何かがよくないように思う。 頭の回転も鈍いように感じる。ここのところTwitterを更新していない。 普段は毎日の食事のツイートや、適当に思ったことを書いていた。 しかし、ある時にふいに、この場にいたくないなと思い、更新するのをやめてみようと思った。 やめたときはこの場にいたくないとまでは思わなかったけど。今にしてみればそう思っていたように思う。 いつもしていたことをやめてしまったから、なんだか調子が狂っているのかもしれないと思うし、何かの調子が狂ったから更新…
確実に言えることは、大江がいなければ村上は存在しなかったということだ。そして、村上が大江を否定しながらサンプリングすることで、村上は村上になることができた。ふたりの「魂」はあまりにも近すぎて、年少の作家として出発した村上は、自分が自分になるために、己に似た「魂」を否定せねばならなかった。(横道誠『村上春樹研究』文学通信、2023) こんばんは。確実に言えることは、小学校の教員の年度末の仕事量は異常ということです。村上春樹さんの作品をサンプリングすれば、 やれやれ。 そうつぶやきたくなります。が、正直なところ、やれやれどころではありません。夜遅くに通知表の所見を書いていると、どこからか「書くんだ…
言語表現法講義 (岩波テキストブックス) 作者:加藤 典洋 岩波書店 Amazon 仕事をしていると、Aを選ぶにしても決め手に欠け、Bを選ぶにしても決め手に欠けるということがある。または、AでもBでも理由が立つから、選べないということもある。 Aしか理由が立たないのであれば、自動でAに決まるわけだが、「AでもBでもどっちでもいい」という状態が一番困ってしまう。 こういうときに「美学」が必要になる。 「価値観」とか「こだわり」と言い換えてもよいだろう。「どっちでもいい」という状態でどちらかに決めるには、より詳細な理由立てが必要であり、その詳細に立ち入るには美学が必要だ。 美学やこだわりは、頭の硬…
「こちら葛飾区亀有公園前派出所」108巻の収録全話のあらすじを紹介していく。 (1998年6月発売) こちら葛飾区亀有公園前派出所 108【電子書籍】[ 秋本治 ] 価格:460円(2024/1/18 22:26時点) ●ケーキ屋れいちゃんの巻 ストーリー 借金返済のため、麗子のケーキ作りの助手をする両さん。採算度外視で、味と見た目にこだわる麗子のケーキはブランドとなっており、麗子の知り合いのケーキ店でだけ数量限定で販売されていた。そんな麗子ブランドのケーキを卸してほしいとデパートの人間が訪問してくるが、麗子は趣味で作っているだけなので、ケーキを卸す気はない。両さんは、持ち前の器用さで麗子そっ…
山田稔・黒川創(編) (2023年12月2日刊行、編集グループSURE、京都, 174 pp., 本体価格2,400円, ISBNなし → 版元ページ)さくっと読了。こういうタイプの大学教員はまちがいなく “野生絶滅” している。【目次】第一部 多田道太郎とは何者だったか?[山田稔・荒井とみよ・藤原辰史・黒川創・瀧口夕美・北沢街子]はじめに 9 京大人文科学研究所、鶴見俊輔、「思想の科学」—— 黒川創報告 11 元「脱走兵」の戦後 20 明治学院大学国際学部と加藤典洋 26 現代風俗研究会でのスタンス 33 詩を読む人 37 「親切」の測り難さ 39 惚れ込みと、飽きっぽさ —— 討議の始まり…
日米交換船 作者:鶴見 俊輔,加藤 典洋,黒川 創 新潮社 Amazon 『日米交換船』鶴見俊輔・加藤典洋・黒川創著を読む。 最初の鼎談がひじょうにすばらしく、いままで鶴見が明かさなかった留学時代、留学船、「日米交換船」*など、第二次世界大戦の様子が生々しく語られている。 日本では不良で女性に溺れ、落第生だった鶴見がハーヴァード大学では心を入れ替え(?)優等生になる。鶴見はそれを「一番病」と称している。ホワイトヘッド、ラッセル、クワインなど当時の哲学の最前線を講演や講義で体験している。一見やわらかくユーモアで包まれたものいいをする鶴見だが、根底には十代の頃に学んだプラグマティズムがあるとは意外…