八月九月 正長夜《まさにながきよ》、 千声万声《せんせいばんせい》 無止時《やむときなし》 by白居易 〜『白氏文集』「聞夜砧」より 【第4帖 夕顔】 空は曇って冷ややかな風が通っていた。 寂しそうに見えた源氏は、 『見し人の 煙を雲と ながむれば 夕《ゆふべ》の空も むつまじきかな』 と独言《ひとりごと》のように言っていても、 返しの歌は言い出されないで、 右近は、こんな時に二人そろっておいでになったらという思いで 胸の詰まる気がした。 源氏はうるさかった砧《きぬた》の音を思い出しても その夜が恋しくて、 「八月九月|正長夜《まさにながきよ》、 千声万声《せんせいばんせい》無止時《やむときな…