夕食を終えて庭に出ると、自宅の前の林のほうからヒグラシの大合唱が聞こえてくる。秋の訪れを連想させるが、資料を見ると、出現はむしろ早めで、6月の末頃からなのだという。昨年はこの鳴き声を聞いたかどうか、覚えていない。 子どものころ、ヒグラシの鳴き声を聞いて、いったい何がそんなに哀しいんだろうって、こっちまで気持ちが落ち込んだものだった。 セミは7年間も地中にいて、地上では1週間の命。何とも儚い一生だ。もの哀しげな鳴き声は、枝葉や幹の間から霧雨のようにさわさわと降り注ぎ、水のようにゆっくりと地面に吸い込まれていく。鳴き声だけでも地中に還りたい。そんな静かな叫びのようにも思えてくる。 この間、本棚にあ…