たつの・ゆたか(1888-1964)、仏文学者。
近代西洋建築の巨人、辰野金吾の長男として、明治21年東京赤坂に生まれる。東京府立一中(現・日比谷高校)では谷崎潤一郎、吉井勇と同窓、府立一高では山田珠樹とも親交を結んだ。
大正末年、パリへ留学。東大仏文科でフランス文学を講じる。
東大仏文科の教室から、渡辺一夫、小林秀雄、中島健蔵、今日出海、三好達治、中村光夫、森有正ら、多数の異才を輩出。
名翻訳で知られるフランス文学者であると同時に、洒脱な随筆家としても著書多数。
かなりの名物教授であった。小林秀雄が「女と同棲しているので稼がなければなりません、ひいては授業に出ている暇はありません」とぬけぬけと言ったのに対し、「ばかやろう、それではお前の実力がわからんではないか」と試験を課し、「これくらい出来るなら、出なくてよろしい」といった逸話がある。