安らぎの石 インターネット回線業者の営業職であった降矢は、給与の不満から独立を決意した。 同僚より成果を上げているにもかかわらず、それが正当な評価に反映されないのだ。 降矢は自分のクリーンな営業を誇りとしていた。 成績の水増しもしなければ顧客との癒着もしない。契約上のデメリットをあえて話さなかったり、顧客に過度な便宜を図ったり、夫人に色目や期待を使って懐に取り入ったりというのは、正当な需要供給の関係に悪影響を及ぼすとの信条だった。 そのため、降矢は三十になるまで、地味でありながらも堅牢な実績を積み上げていた。内外の信頼も厚い。それも正当な商品説明や魅力を語る努力の賜物である。顧客に少しでも不利…