作家。 1945年7月1日、生まれ。2015年5月17日、死去。 慶応義塾大学卒業。 「万蔵の場合」で第86回芥川賞候補に。「鹽壺の匙」で第6回三島由紀夫賞並びに第43回芸術選奨新人賞(平成4年)受賞。「漂流物」で第25回平林たい子文学賞(平成8年)受賞、同作は第113回芥川賞候補にも。「武蔵丸」で第27回川端康成文学賞(平成13年)受賞。「赤目四十八瀧心中未遂」で第119回直木賞受賞。
車谷長吉『鹽壺の匙』には驚いた。じつは刊行時がこの作家の登場ではなく、いく年も前から、納得ゆくものだけをポツリポツリと雑誌発表してきた寡作作家で、ようやく一冊分が溜って刊行されたから、私のようなものの眼にも入ったのだった。内面の格闘を凝視した、コテコテの私小説である。 頑固な人、志の高い人、という印象だった。さも誠実そうに自我を描くには、自己対象化のユーモア精神がぜひとも不可欠だから、この人もあんがい面白い人かもしれないなんぞと想像した。拝眉の機会は、とうとうなかったけれども。 私にも思い当る点がいくつかある文学だった。が、私にはとうていそこまで徹底してこだわりれきぬ世界だった。執念の差という…
業柱抱き (新潮文庫) 作者:車谷 長吉 新潮社 Amazon 『業柱抱き』車谷長吉著を読む。 「私小説は自己の存在の根源を問うものである」と述べる作者が、いかにして私小説を書くようになったか。あるいは、いかにして私小説作家になったかをめぐる随筆集。 仕事の合間に沸沸と心の奥底に沸き上がるものを、言葉にしては、書いては消し、消しては書いて。穴の開くほど推敲を重ねて出版社に投稿、やがて雑誌に掲載される。望外のことで狼狽する。作家の肩書きをもらい、文学賞ももらって、最も困惑しているのは当の本人。その辺りの心境が赤裸々に綴られている。 「私小説は、人に忌まれ、さげすみの標的にされて来た。そのような言…
本日は久しぶりでの野暮用でありまして、いつもよりもすこし時間がかかって 帰宅しましたので、ちょっとくたびれでした。夜にはトレーニングにいくことは できないかと思っておりましたが、その元気はありませんでした。 夜には昨日に購入した車谷長吉さんの「文士の魂・文士の生魑魅」を手にする ことにです。この文庫の巻末解説は田中和生さん(1974年生まれの方だそうです) が担当で、田中さんは「『鹽壺の匙』以来その作品に魅せられながら、どうして 車谷長吉は私小説にこだわるのだろうとずっと思っていた。」と書き出していま す。 田中さんが「文学的な影響をあたえられ、またその新しい作品に注目しつづけ ている同じ世代…
本日に関西からの最後の客人は暑いところに戻って行き、当方の夏の家の このシーズンの利用は終わりとなりました。どこかから話がありましたら、 受け入れは可能ですが、とりあえず休業となります。 空港へと送り届けた帰りに市内東部地区にあるブックオフに立ち寄ることに なりました。お盆時期のセールは終わっていましたので、予算はワンコインと なります。 店に入って早々に目に入ったのは、比較的新しい単行本でありまして、当方の 守備範囲のものではありますが、これはどんなものかと買ってみることになり です。 輝く断片 (奇想コレクション) 作者:シオドア・スタージョン 河出書房新社 Amazon 小説家の名前は初…
車谷長吉という小説家に興味を覚えたのは2015年、彼が亡くなったときのことである。死亡記事のなかで、彼が朝日新聞の人生相談「悩みのるつぼ」で出した答えが紹介されていて、それがちょっと普通ではなく、この人はおもしろい人だなと思った。同時に、恐ろしい人だとも思った。その相談は高校の教師をしている男性からで、教え子の生徒が好きになってしまったけれど、どうしたらよいのかという相談であり、車谷長吉は「好きになった女生徒と出来てしまえばよい」と返したというのである。この人、人生に対して並々ならぬ覚悟を持っているらしい、でなけりゃこんなこと言えない。どういう理屈でこんなふうに言えるのかと朝日文庫『車谷長吉の…
もう私小説は打ち止めにしようと思っていたのだが、2021年に中公文庫から出た車谷長吉のアンソロジーを読んでしまった。 といっても『抜髪』と『漂流物』は以前読んだので、それ以外の収録作品『変』、『狂』、『武蔵丸』などを読んだ。面白かった。 巻末エッセイとして妻の高橋順子(詩人)の文章もあって、これもいい。 具体的な経緯はまったく知らないが、車谷は私小説で書いたことで名誉棄損で訴えられ、「私小説廃業宣言」をしたらしい。 西村賢太は、車谷について、 私小説書きの中には自らにさしたる傷もない余り、親戚の自殺(は、こちらにも経験があるが)をさも自身の苦悩事のごとく、田舎者根性丸出しの深刻ぶった文章で書き…
初詣ってどうやってやるんですか? 学校で習いました? ここでニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』を朗読すればいいんでしたっけ? 或いは、ここでピストルズの『God Save The Queen』を熱唱すればいいんですかね。 この神聖な水で手を洗えばCOVID‑19は死にますか? 車谷長吉さんはこの辺りで生まれ育ったそうです。 死んだ俺の父は車谷長吉さんと同じ高校(オナ高)出身です。 母も車谷長吉さんと同じ高校(オナ高)出身です。 俺も車谷長吉さんと同じ高校(オナ高)出身です。 しかし父も母も俺も慶應へは行っていません。 学のない、その辺の阿呆です。 期間工と肉体労働の日々です。 信濃や十…
今日の気になる書籍のご紹介 いま話題の書籍や古書などジャンルを問わず 良いなと思った書籍を幅広く関連書を交えて紹介していきます。 本日、ご紹介する書籍はこちら。 赤目四十八瀧心中未遂 [文庫] [2001] 長吉, 車谷 赤目四十八瀧心中未遂 | 車谷 長吉 |本 | 通販 | Amazon あらすじ 圧倒的な小説作りの巧みさと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描き切る。直木賞受賞で文壇を騒然とさせた話題作。「私」はアパートの一室でモツを串に刺し続けた。向いの部屋に住む女の背中一面には、迦陵頻伽の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」―。 書籍情報 赤目四十…
花園神社に詣でてきた。景気がいいネ。花園神社ってったら、芸人が多く参拝する神社だ。なんて話したら、私のかかっているカウンセラーの先生が、ちかくのガッコでスクールカウンセラーしてるんだってさ。 このひとが立派な、頭いいセンセイでね、っていうのはいいとして。 心理療法/カウンセリング 30の心得 作者:岡野 憲一郎 みすず書房 Amazon 精神科医が教える 忘れる技術 作者:岡野 憲一郎 創元社 Amazon 自分でも何等の疑問なく、たしかに、肌身に実感していられていることがあって、芸人、なんですよね、小説を書くっていうことをしている人間って。――私はそだちが悪いから、その通念をほんとうに自分で…
5. マル・ウォルドロン『Left Alone』 古いJAZZのレコード買いにハマっていろいろと集めているところだが、中でも一番聴いたのはこれ。冒頭、タイトルナンバーでの哀愁漂うジャッキー・マクリーンのアルトサックスがたまらんです。 4. ラッキー・オールド・サン『Belle Epoque』 おそらく東京のユニット。荒井由美やハイ・ファイ・セット、初期スピッツを彷彿させるフォーキーな印象を受けつつ、どことなく現代的なところもある。気づくと「♪まる~く太らせて~たべ~てし~まい~たいよ~」を口ずさんでしまう。 3. チリー・ゴンザレス&ジャーヴィス・コッカー『Room 29』 みんな大好きジャー…
なんとも泥臭い作品です。そこを見事に書いています。 平成10年の直木賞受賞作品となります。 赤目四十八瀧心中未遂 車谷長吉(くるまやちょうきつ):著 文春文庫 個人蔵 決して裕福とは言えない環境で生活し続けていく、ちょっと普通じゃない人たちの息遣いを描いた作品。おそらくどこかの時点では、こういった生活様相がそこかしこにあったのではと思われるくらいのものに見えるが、見たいけど見たらダメなような気がする、そんなことを思わせる作品でした。 その理由としては、その環境から抜け出さない、抜け出せない、抜け出す空気を感じないというのがありました。そもともというか、もともとというのか、外の世界のことを考えた…
三月二日、明日はひな祭りですね。ささやかな、ひな人形を飾る。可愛い。 今、姫路の文学館で木山捷平展が開催されているのを、本ともの人等の報告 で知り、木山ファンの一人だし行きたいが少し遠いので今はまだやめておく。 先日、京都行った時もちと長い距離の移動はしんどいなぁ。と思ったばかりだ し病院へ行った後も何だか頭の具合が余り良くなくて自分でも無理だなと思っ た。姫路には縁があり、前に何度も行くことがあった。文学館へも二度行った 二度目は車谷長吉さんから今度、「赤目四十八瀧心中未遂」の映画上映とトー クするから来て。と電話で言われて「行きます。」と言うと、じゃあ連絡して おくから。とで前日に電話があ…
朝になった ねむりはそれなりに4時間くらいは持続するのでその意味では地獄ではない (よくまったく眠れなかったという人がいますがそれはウソです) しかしねいりばなの空気が鼻の穴を通らないのをむりに圧をかけて 鼻から呼気を出していこうとする努力 あれを眠ろうとするリラックスにさからってやらないといけない のはほんとうに苦難である 口呼吸のまま寝れるかって寝れないもんねオレはそんなこと 意図的にしたことないし だいたい人間は口呼吸で生きるようにできていないから こそ 故人である赤目四十八瀧の先生があんだけ苦しんだんであるからして お名前を失念した まあそれはいいです BINGに搭載されたAIにきいた…
本を買った。いしいしんじ『げんじものがたり』講談社文庫、2023げんじものがたり (講談社文庫)作者:いしい しんじ講談社Amazon千葉雅也『オーバーヒート』新潮文庫、2024オーバーヒート (新潮文庫 ち 9-2)作者:千葉 雅也新潮社Amazon川上未映子『すべてはあの謎にむかって』新潮文庫、2018すべてはあの謎にむかって (新潮文庫)作者:川上 未映子新潮社Amazon酒井順子『儒教と負け犬』講談社文庫、2012儒教と負け犬 (講談社文庫)作者:酒井 順子講談社Amazon桐野夏生『白蛇教異端審問』文春文庫、2008白蛇教異端審問 (文春文庫 き 19-11)作者:桐野 夏生文藝春秋…
勝手に生きろ! (河出文庫 フ 3-5) 作者:チャールズ ブコウスキー 河出書房新社 Amazon ぼくの人生を振り返ってみると、決して順風満帆というわけではない。子どもの頃は友だちを作ることもできず本の中に閉じこもってばかりで、そんな孤独な生活を大学まで送ったあと就職でつまづいてから本格的に酒に溺れる生活が始まり、それは40まで続く。いまもぼくは独身でロマンスの経験もない。まあ、そういう人生もありうるのだ。 だからなのか、ぼくは「ドロップアウトのえらいひと」的な挫折と辛酸に満ちた人生を過ごした人の語る含蓄深い語りに弱い。文学作品だとそれこそ村上春樹を筆頭に、好みで言えば松浦寿輝や堀江敏幸、…
昨日くらいから図書館本館が再開した、みたい。本も来るようになった。よかった。お疲れ様でございます。 車谷長吉全集 第一巻 中・短編小説集作者:車谷 長吉新書館Amazon 村上龍自選小説集 (4)作者:村上 龍集英社Amazon 安岡章太郎短篇集 (岩波文庫 緑228-1)岩波書店Amazon 偽りの銃弾 (小学館文庫)作者:ハーラン・コーベン小学館Amazon 吉本隆明全集25: 1987-1991 (第25巻)作者:吉本隆明晶文社Amazon
居酒屋で覚醒剤を売るな! どんな町やねんと思いますが、ここはかの西成でございます。大阪、西成が大好きに大好きになってしまいましたので、楽しかった記憶を雑に書いていきます。 ここ三か月の空白はさておき、(会社がちひろさんのライブ100回分の特別賞与をだしたことくらいしか楽しい話題はありませぬ…)今回は大阪・三重へボンビームチャ旅へでてきました。車谷長吉の赤目四十八瀧心中未遂が好きなので、赤目へ行ってみたかったこと。そしてついでに伊勢・鳥羽。大阪では澤野工房さんへ行きたかったのです。 26日に出社してそのまま小田原に一泊したのですが、小田原は立派な駅舎ながら表に出てすぐの通りで風俗の呼び込みをして…
12月の古本購入は25冊も買ってしまった。ついに積読本も500冊越え。どうするんだ、義経鵯越の逆落としじゃあるまいし、2024年の抱負はなんだ。抱負は豊富なんて言ってる場合じゃないぞ。とにかくこの写真じゃ分からないので、ここに一覧を書かねばなるめえおっかさん。 『悼む人』(上・下)天童荒太 『八月の路上に捨てる』伊藤たかみ 『エンジェルフライト(国際霊柩送還士)』佐々涼子 『帰郷』大佛次郎 『陰翳礼讃』谷崎潤一郎 『あの家に暮らす四人の女』三浦しをん 『幻夜』東野圭吾 『異邦人』カミュ 『風神雷神(上・下)』原田マハ 『リボルバー』原田マハ 『盗賊会社』星新一 『いい女、ブッ散らかしており』阿…
べつに誰に頼まれたわけでもない自己啓発本を読むシリーズですが、これでラストにしたいです。『7つの習慣』、自己啓発業界に明るくない自分でもタイトルを聴いたことがあるくらいなので、自己啓発の親玉みたいなものなのかな? これは読んでおこうかな、と思って読んでみました。 ■『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』 スティーブン・R・コヴィー著、フランクリン・コヴィー・ジャパン訳、キングベアー出版、2015 私の読んだやつは2015年の版ですが、amazonを見てみると30周年版とか25周年版とかオーディオ付きとかめっちゃバリエーションが出ている! のちには『第8の習慣』とかも出ているようで、amazonで…
太宰とか、安吾とか、自意識まわりの小説はとうに流行らない時代になっている。それは、SNSというゴミ箱に放り込まれた、自意識まわりの言葉、ジャンク品としての言葉をだれもがこんにち、見馴れているというのも大きいだろう。近松秋江くらいの芸にならなければ見世物にならない、――せめて車谷長吉くらいの「自意識まわり」を演出する余裕といおうか、したたかさが文章家にはもとめられるのだ、と言い換えてもいい。車谷長吉というのはモダニストであって、ほかにいろいろな文章が書ける、全然ふだんああではないような人が、敢えて、選択的にあの書き言葉を選んでいるわけだから、太宰とか安吾とはまたちがうし、檀一雄ですらないのだけれ…
恋愛アンソロジーというテーマだけど、なかなかバラエティに富んだ内容に驚くこと請け合い。ラインナップは以下のとおり。 「桜の森の満開の下」 坂口安吾 「武蔵丸」 車谷長吉 「花のお遍路」 野坂昭如 「とかげ」 よしもとばなな 「山桑」 伊藤比呂美 「少年と犬」 ハーラン・エリスン/伊藤典夫 訳 「可哀相」 川上弘美 「悲しいだけ」 藤枝静男 どうですか?恋愛のアンソロジーなんでしょ?って思いませんか?でも考えてみれば、恋愛といっても色んな形があるもんね。大きな括りでとらえたら、どんどん世界は広がるわけだ。 巻頭の安吾は、有名な作品だから読んだ人も多いと思うけど、こんな凄惨な話だったっけ?すっかり…
第169回芥川賞候補作。 鉄鋼を溶かす高温の火を扱う溶接作業はどの工事現場でも花形的存在。その中でも腕利きの伊東は自他ともに認める熟達した溶接工だ。そんな伊東が突然、スランプに陥った。日に日に失われる職能と自負。野球などプロスポーツ選手が陥るのと同じ、失った自信は訓練や練習では取り戻すことはできない。現場仕事をこなしたい、そんな思いに駆られ、伊東は……。 『我が友、スミス』を読んで以来、石田夏穂を追いかけている。私が読んだ中では初の男性主人公である。しかもユーモアもない。そういう意味では新境地なんだろうか。男性主人公でユーモアがなくても、やっぱり面白い。この溶接工の話を読んで、車谷長吉の小説を…