工場ではよく人が死ぬ。 電気を貪り喰らいつつ、ひっきりなしに駆動する金属の森の只中で、有機体はあまりに脆い。 注意一秒・怪我一生、刹那の油断が命取り。指が飛んだり皮膚が溶けたり、そんなことはしょっちゅうだ。それだから昔の町工場は、よく敷地内に祠を建てた。祠を建てて神酒を供えて両掌(りょうて)を合わせて勧進し、「良き運命」を呼び込まんと努力した。 (戦前・花王石鹸工場) そのころ都下でくすぶる文士に、遠藤節というやつが居る。 「節」一文字で「さだむ」と読ませる。長塚節の影響を、いやが上にも勘繰りたくなる、そういう名前の持ち主が、ネタを求めて東京市の工業地域――蒲田区に足を踏み入れたのは、昭和十四…