内田百閒の作品を初めて読んだのは、大学生の時、岩波文庫版の「冥途・旅順入城式」だった。 その、簡潔かつ淡麗な文章で綴られた、幻想・怪異そして諧謔の混在した世界に魅了され、すぐ続けて同じ岩波文庫の「東京日記 他六篇」を買い求めたが、上記はこの作家の第一及び第三作にしてこちらは後記の作、ではその間のものは――と探したものの、当時読む本はこれに限っていた、新品の単行本では見出すことができなかった。 その後、「ノラや」「クルやお前か」の収録された中公文庫を目にし、さらに少し世界を広げ図書館で「阿房列車」に出会ってこれらも読んだが、まとまった作品群に接する機会はなかった。 これは主に私の探索が十分でなか…