1955年生まれ。 成城大学大学院文学研究科国文学専攻博士課程中退。 東横学園女子短期大学助教授、成城大学文藝学部教授を経て、現在早稲田大学教育学部教授。 専攻は日本近代文学。 現代思想を武器に文学テクストを分析、時代状況ともリンクさせた斬新な読みを提出する。 また、一人息子の中学受験を機に、国語教育、とくに入試の「国語」についても問題提起を開始する。
柄谷行人『探究Ⅱ』(講談社学術文庫) 柄谷行人『探究Ⅱ』における「いじめ」論 石原千秋『教養としての現代文学』における指摘 柄谷行人『探究Ⅱ』のいじめ論としての読み換え 柄谷行人『探究Ⅱ』における「いじめ」論 柄谷行人と言えば、日本を代表する文芸評論家のち、思想家であるが、その著『探究Ⅱ』(講談社)には、いじめ論として読める部分がある。 これを指摘したのは、国文学者の石原千秋(早稲田大学大学院教授)である。 石原千秋『教養としての現代文学』における指摘 石原千秋は、『教養として読む現代文学』(朝日新聞出版、2013年)所収の第4章「『僕ら』とは誰か:大江健三郎『芽むしり仔撃ち』」において、『探…
夏目漱石の『こころ』といえば男女の三角関係を描いた名作小説だ。高校の国語の授業で扱われるので、読んだことがある人が大半なのではないかと思う。 夏目漱石『こころ』だが、その解釈を巡って「こころ」論争と呼ばれる文学論争があったのはご存知だろうか?夏目漱石『こころ』の解釈をめぐって論争が起こったのである。1980年代の出来事である。 『こころ』論争とは、小森陽一や石原千秋らのテクスト論派と、三好行雄といった作品論派の間に起きた夏目漱石『こころ』の解釈をめぐる論争である。テクスト論を活用した現代文学理論派と、作品論が中心の守旧派との対立だ。テクスト論派が、「私」は先生の死後にお嬢さんと共に生きている…
村上春樹作品といえば謎に満ちたストーリーが特徴だろう。 村上春樹作品を読んでみたが、謎が多いために内容がよく分からないという人は多いのではないだろうか。また、村上春樹作品を色んな視点から読み解きたい、もっと深く読み解きたいという人も多いと思う。 そんな時に役に立つのが、研究者や文芸評論家が書いた研究本や解説本だ。数多くある村上春樹についての解説本・評論本・研究書の中でおすすめのものを紹介したい。
漱石関連文献 林原耕三『漱石山房の人々』(講談社文芸文庫,2022.02)の復刊 漱石山房の人々 (講談社文芸文庫) 作者:林原 耕三 講談社 Amazon 森まゆみが永井荷風『鴎外先生』(中公文庫,2019)の「解説 鴎外と荷風」のなかで記している。 残念なことだが、亡くなってのちも読みつがれる作家はきわめて少ない。有名な賞の作家でも次の受賞者が出てくると古い方から消えていく。そういうことを繰り返し見ているうちに、あることに気づいた。それは亡くなった時に後輩が騒がなければいけないということだ。大正11年七月九日森鴎外が亡くなった時に、永井荷風は見事にその役を務めた。(308頁『鴎外先生』) …
こういう例を知ると、私たちは言葉を通してしか世界を理解できないと考えたのではまだ不十分で、「言葉が世界だ」と考えざるを得なくなってくる。「世界は言語だ」とすると、言葉を使う人間がいなくなることは、「世界」がなくなることと同じだということになる。これが言語論的転回以降の言語観である。 『第二の性』で一番有名なフレーズは「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」だろう。「女に生まれる」と考えるのが本質主義の立場で、「女になる」と考えるのが構築主義の立場だ。したがって、女性は「女らしく」なければならないという価値観は、文化がそれを変えることを望むなら変わるということだ。だから言語的転回がなければ、…
その結果、何らかのヒューマニズムとか人格であるとか、社会に対するある種の批評性を持つような「作者の意図」が想定されていた。つまり、社会的に価値のある「作者の意図」が想定されていたわけだ。これは、文学部がまだ女子学生の受け皿だった時代の、いわば無意識の要請でもあったのかもしれない。文学を学ぶことが良妻賢母的に人格を陶冶すると信じられていた、そして実際にそのように機能していたという意味である。 今日から読み始めたのは石原千秋『読者はどこにいるのか』 読者はどこにいるのか; 読者論入門 (河出文庫) 作者:石原千秋 河出書房新社 Amazon 文章が読まれているとき、そこでは何が起こっているのか。「…
教育への支出は比較的リスクが少なく、割のいい投資だ。 こういう文脈の中で中学受験をとらえる必要があるそうだぜ。 あと気になったのは、教員志望の優秀な学生が公立中学校を 避ける傾向が、特に首都圏では顕著にあるっつう話だな。 教師は魅力ある職業じゃなくなっちまったのかもな。 さて、この本は受験を扱う著作が多い大学教授が 中学入試攻略のヒントをちりばめてくれてる作品だ。 目からウロコな入試問題のルールってのも結構あったぜ。 読解問題の特別なルールを知らずに、感性を頼りに自由に読むと、 小説の読み方としては正しいのに、マルが貰えない、とかな。 入試国語の目的は、ルールに従って答えを一つに決めること。そ…
『推し、燃ゆ』(宇佐見りん著)を読み、著者の瑞々しい感性に強い刺激を受けて以来、私は常に自分の意識を覚醒させて認識の再構成を図っていこうと、なるべく若い世代の作家の小説を意図的に選んで読むようにしている。そのような中で今回チャレンジしたのが、『正欲』(朝井リョウ著)である。本書は、朝井氏が自らの作家生活10周年を記念して著した長編小説で、第34回柴田錬三郎賞や第3回読者による文学賞等を受賞し、2022年本屋大賞にもノミネートされた作品である。累計発行部数が50万部を超えて、2023年には稲垣吾郎や新垣結衣等の豪華な俳優陣が共演して映画化もされ、衝撃的な問題作として評価を高めているらしい。 登場…
読者はどこにいるのか; 読者論入門 (河出文庫)作者:石原千秋河出書房新社Amazon本書について小説を読むを読むとはどういうことなのか?小説を読む人すなわち読者とは何なのか?読者は、小説に対してどこまで自由な読みが許されるのか?――これを考えるのが読者論だ。広義には文芸批評論そのものと言えるかもしれないし、狭義には小説における自己論・自我論という話なのだろう。内容については、本書の「おわりに」で丁寧にまとめられている。 この本で試みたのは、次の四つのことだ。少し難しい書き方になることをお許し願いたい。 第一は、日本の近代文学研究では、どのようなパラダイムを背景に「読者」が音大として浮かび上が…
読書が計画通りに行きません。無念です。でももう、しょうがないかなと諦めてもいます。日本語日本文学専攻のわりに読むのが遅く、せいぜい週に二冊というところなので、あまり欲張って計画倒れが重なるのも切ないです。今年は一層、快適さ重視で読書を楽しみたいです。 2023 年はよい本を読めました。「なんだかなー」と思うような本は一冊しかありませんでした。運が良かったです。今後も運頼りにどんどん読みたい。 以下、印象に残った本の読書メモです。 🚋 金井真紀『日本に住んでる世界のひと』、岡真理『ガザに地下鉄が走る日』🚋 2024 年最初に見た映画は『イミテーション・ゲーム』(2014 モルテン・ティルドゥム)…
1・松本清張『昭和史発掘』(全九巻、文春文庫) 2・立花隆『天皇と東大』(全四巻、文春文庫) 3・清水晶子・ハン・トンヒョン・飯野由里子『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(有斐閣) 4・森岡正博『生まれてこないほうがよかったのか? 生命の哲学へ!』(筑摩選書) 5・ジョリス=カルル・ユイスマンス『さかしま』(澁澤龍彦訳、河出文庫) 6・サマセット・モーム『金原瑞人MY FABORITE 征服されざる者 The Unconquered/サナトリウム Sanatrium』(青灯社) 7・Joyce Carol Oates, "Where Are you Going, Where Have Y…
著者は同年 三人称 鉄塔(賽助)の『手持ちのカードで(なんとか)生きてます。』(河出書房新社、2023年)を読みました。 本書は言わばエッセイですが、通常のエッセイとは違います。河出書房新社の「14歳の世渡り術」シリーズの一冊で、いうなれば中学生の男女に向けた人生指南書のようなコンセプトなのでしょう。世の中を斜めに見たり批判したりするような「毒」はありません。 とはいえ、著者が私と同年ということもあり、また同じく元小説家ワナビでもあって(私は「元」ではありませんが)、しかもどうやらこじらせていたらしい形跡も読み取れて(私は過去形ではありませんが)、読んでいていろいろと考えさせられました。 なお…
研究室の本棚の新書を整理していて、久しぶりにこの本を手に取った。 未来形の読書術 (ちくまプリマー新書) 作者:石原 千秋 筑摩書房 Amazon 石原千秋さんといえば、私が大学院生だった時、文学研究界、新進気鋭の代表格のような存在。一生懸命読んだ。この本は2007年に出版である。 文学理論について平易な言葉で、具体例も挙げて説明してくれている。私の授業で難解な理論を説明する時にこの本は活用させていただいた。 今回、改めてパラパラ読み直していると(本棚の整理をすると大体こういうことになる。いつの間にかそれまで読んでいた本を一旦置いといて、こっちの本を最後まで読んでしまう。)読書論としても改めて…
ポケットの中、あのころの自分の痕跡を探すように机の引き出しをあければ、在りし日の読書日記がそこにある。ネットでも紙でも、昔書いていた文章がすぐに見つかるところは自分の几帳面さに感謝している。(Twitterもアーカイブ残しときたいけど、データDLしてもなぜか上手くいかないので、結局地道にキャプチャするのが良さそうだと思っている。) 2018年~2019年ごろ。1冊に1ページがあてがわれ、それなりに丁寧な文字できっちりと感想が記されて、それがなんと1年半くらいも続いている。すげー。そしてブログやnoteと違って自分以外の読者がいないためか、一切のパフォーマンスなく素朴にいろんな感情が書いてある。…
夏目漱石『こころ』は、1960年頃からほとんどの高校教科書の教材として国民的に読まれることになった。多くは高校2年の国語教科書で、「全体構成+あらすじ+(下)35~48節+その後のあらすじ」の構成からなる。「学習の手引き」によって、教師からの「教育」的メッセージ(教科書の構成からして「友情か恋愛・エゴイズムか」の二項対立に力点が置かれる)を伴って道徳的に問いかけられる(一方で教科書の教材としては文学国語から実用国語教育へと重点化が動いている現在でも教育現場での立ち位置はいまだ普遍で、『こころ』神話とも呼びたくなろう)。 この教科書体験および夏休みの課題図書として挙げられた永遠のベストセラー(購…
打倒!センター試験の現代文 (ちくまプリマー新書) 作者:石原 千秋 筑摩書房 Amazon 読了日2015/08/03。 かつて受験指導のために読んだ。今となってはセンター試験自体がなくなったが、共通テストへの移行に伴って起きた様々なゴタゴタ(記述式の拙速な採用と廃止)は、それに対する文学研究者の反応(紅野謙介氏らの批判)も含めて、歴史的文献として記憶しておくべきだと思う。 本書は、旧センター試験に求められる能力として、①要約②換言③パターン化の三つが必要と指摘する。①②は多くの受験参考書や予備校でも指摘されており、本書の眼目は③にある。筆者は、国語は道徳であるという観点から、評論では「進歩…
人類を代表して人外魔境へ。 記事一覧:2023-08-03から1日間の記事一覧 - 呂律 / a mode distinction 読書教育を学ぶ人のために作者:山元 隆春世界思想社Amazon 田中実(1996)『小説の力―新しい作品論のために』 大修館書店 田中 実(1997)『読みのアナーキーを超えて:いのちと文学』右文書院 ISBN:4842197080 上谷順三郎(1997)『読者論で国語の授業を見直す』明治図書 ISBN:4183493153 山元隆春(2005)『文学教育基礎論の構築:読者反応を核としたリテラシー実践に向けて』 溪水社 ISBN:9784874408759http…
記事一覧:2023-08-03から1日間の記事一覧 - 呂律 / a mode distinction テレンス・ホークス(1977)『構造主義と記号論』 ISBN:9780415321532 冨原芳彰(1985)『文学の受容──現代批評の戦略』研究社出版 ISBN:4327480851 岡本靖正・外山滋比古・川口喬一 編(1988)『現代の批評理論1:物語と受容の理論()』 研究社出版 ISBN:4327152013 ラマーン・セルデン(1989)『現代の文芸批評:理論と実践』 彩流社、1994 ISBN:4882022966 石原千秋(1991)『読むための理論:文学・思想・批評』 河出興…
記事一覧:2023-08-03から1日間の記事一覧 - 呂律 / a mode distinction 読者はどこにいるのか--書物の中の私たち (河出ブックス)作者:石原 千秋河出書房新社Amazon 文庫版:ISBN:4309418295 第一章「読者がいない読書」 第二章「なぜ読者が問題となったのか」 第三章「近代読者の誕生」 第四章「リアリズム小説と読者」 第五章「読者にできる仕事」 第六章「語り手という代理人」 第七章「性別のある読者」 第三章「近代読者の誕生」 [063] 永嶺重敏(1997)『雑誌と読者の近代』(日本エディタースクール出版部) ISBN:4888882614 第四…
★★★★☆ 内容 小説の読み方を紹介し、その後、様々なタイプの小説に対して具体的に実践しながら論じていく。 感想 著者による小説の読み方が紹介されていく。序盤に挙げられていた小説を読むときの4つの視点「①メカニズム ②発達 ③機能 ④進化」は有用そうだった。小説を読み終わった後、いざ感想を書こうとしてビックリするくらい何も感想が思い浮かばない時がたまにある。そんな場合の、何かをひねり出すトリガーになってくれそうだ。これは元々高名な動物行動学者が研究時のアプローチ法として唱えたものだそうで、小説に限らず、日常生活の諸問題などあらゆる場面で応用できそうだ。 面白い小説はどんな仕組みになっているのか…
2023 年を半分すごしましたので、読書記録を公開します。半年分あって漠然としているので、簡単に。 印象に残っていること エルキュール・ポワロのシリーズを最初から最後まで、順番通りに読んでみるというのを合間合間にやっていて、今年ついに『カーテン』までたどりつきました。シリーズ前半では、アイデアの豊富さに驚き、中盤ではテーマが定まっていくところにわくわくし、後半では繰り返し登場するモチーフに胸が痛むという読書体験でした。ポワロ最後の事件となる『カーテン』は時系列に矛盾があり、それでも書き直さなかったところに、痛ましさを感じました。その流れで今度はジェーン・マープルのシリーズを読み直しています。改…
第4回パリオリンピック日本代表選考会(2023年5月6日・7日,トッケイセキュリティ平塚総合体育館)を兼ねた大会で,男子は戸上隼輔,女子は早田ひなが優勝した。 男子決勝で戸上は張本智和に 4-3 (8-11, 11-6, 11-5, 5-11, 11-8, 7-11, 11-6) とフルゲームを制した。終始攻撃的な卓球で試合を進め,ときに強烈なバックハンドで張本に勝った。対張本では1月の全日本選手権に続いての勝利となった。戸上は1回戦から零封はなかったものの順調に勝ち進んだ。張本は鈴木颯との2回戦をフルゲームで突破していた。 女子は,早田が中学生の張本美和に 4-2 (9-11, 11-9, …