宮本洋子:里見弴 1947年(昭22)苦楽社刊。 日中戦争の激化してきた昭和14年から終戦に至るまでのいわゆる戦中期を過ごしたヒロイン宮本洋子の生活と心情の移り変わりを描く。一流の音楽家同士で結婚したが、夫は召集後間もなく戦死する。その直前までの宮本家は各分野の文化人が出入りするサロンの華やかさがあった。洋子もフランスに留学したピアニストであったが、戦況の悪化によりそうした芸術活動も抑圧された。この時代の知識人たちが抱いていた反戦思想を表面に出せば、投獄あるいは拷問で犬死になるしかなかっただろう。夫を失った悲しみに耐えながら、疎開先で農業にいそしむ姿は崇高にも見えた。終戦の放送が彼女の精神に与…