古書の約10冊 隅江三郎『詩抄』私家版、昭和14年 老いたるノビオ雲の室(へや)から 私は降りてゆく かたくなな灌木の 隧道をぬけて。 あしもとの空隙で 私の脚は纖(ほそ)い脈になる。 ともすれば 退(の)いてゆく空 それにも似てゐる 私の耳がら。 私の近眼鏡(ぐらす)も、枯れた。風と、芒の 視界を掠めて 私は登場を遲れた 星色の夜。 遠く、近くを織る 海のMADRIGAL………を、 錆びたその日の 追憶に聽く。歌よ。おお。海の。 海に、はな展(ひら)く、火龍か。 その鱗(うろこ)雲よ。 繰れば日誌は むかしのままに、 涯ない襞をなして 還つてゆく。ノビオ。 とは言ひ 私は索(たづ)ねあてたの…