田辺元という人は、哲学者にしては珍しく大変な秀才だったと言われる。確かに、著作を読む限り、同時代の哲学者だけでなく、現在に至る日本の哲学者の中でも、頭の出来はピカ一だったのではないだろうか。もっとも、頭の出来がいいからと言って、面白いものを書けるかと言えば、必ずしもそうではないだろうし、大きな業績を残せるとも限らない。 17世紀西欧のような特殊な時代は例外として、近代以降の学問の細分化・専門化の時代にあっては、頭の出来がいい者が進んで哲学を専攻することは稀なことだとの感がある。廣松渉も「今の時代、アホだから哲学をやるという風になってしまった」と言っている通り、優秀な者が率先して哲学を専攻しなく…