肉だ、と心の一部が言っている。肉の言い分だ。無視しちまえ、と。 (ウィリアム・ギブスン,黒丸尚訳,『ニューロマンサー』,早川書房,1986年,289頁) 『ニューロマンサー』の肉体性について語ってみる。 脳-身体という野卑な二元論を『ニューロマンサー』へそのまま応用すると、ギブスンは「電脳空間」に代表される「脳」について語りながら、その実、「膚板」「リンダとの関係」に代表される「身体」について語っていることが分かる。それこそ伊藤計劃は、ギブスンの流行に絆されない冷静を「ガーンズバック連続体」でもって評価したわけだが、『ニューロマンサー』にもまた同じ評価を当てはめることができるだろう。つまり、脳…