映画が始まると映画の冒頭部分が映しだされ、そして、映画の最後になると映画の結末が流されていく。…なんとわかりきったことをくどく言うと思うだろうか。そうではないのだ。最初の「映画」はヴィクトル・エリセ監督による『瞳をとじて』であり、冒頭と結末だけが映し出された「映画」は、映画の中の登場人物である映画監督ミゲル・ガライがかつて撮影した未完の作品『別れのまなざし』なのである。 よくある劇中劇ならぬ映画中映画と言うこともできるが、話はそう簡単ではない。始まりと終わりの「間(あいだ)」にあるべきものが抜けているのは、『別れのまなざし』のみならず、『瞳をとじて』という映画に隠された数々のモチーフと言うべき…