斎宮は二十に余り給ふ。ねびととのひたる御さま、神もなごりを慕ひ給ひけるもことわりに、花と言はば、桜にたとへても、よそ目はいかがとあやまたれ、霞の袖を重ぬる隙も、いかにせましと思ひぬべき御ありさまなれば、まして隈なき御心の内は、いつしかいかなる御物思ひの種にかと、よそも御心苦しくぞおぼえさせ給ひし。 御物語ありて、神路の山の御物語など、絶え絶え聞こえ給ひて、「今宵はいたう更け侍りぬ。のどかに明日は嵐の山の禿なる梢どもも御覧じて御帰りあれ」など申させ給ひて、我が御方へ入らせ給ひて、いつしか、「いかがすべき、いかがすべき」と仰せあり。思ひつることよと、をかしくてあれば、「幼くより参りししるしに、この…