(本書の真相のほか、アガサ・クリスティの長編小説の内容に注で触れていますので、ご注意ください。) 『迷路の花嫁』(1954年)を最初に読んだときは、『獄門島』や『八つ墓村』はもちろん、同時期の『幽霊男』(1954年)や『吸血蛾』(1955年)と比べても、随分毛色の変わった小説だなと思った。 冒頭から、いきなり宇賀神薬子という仰々しい名前の霊媒が一軒家で全身血まみれになって死んでいる。辺りには幾匹もの猫が血をすすり、口を真っ赤にしてうろついている。カーター・ディクスンの『プレーグ・コートの殺人』(1934年)あたりを連想させる幕開きで[i]、これはまたトリッキーな謎解きが読めそうだぞ、と期待して…