今さらこの足に、草鞋が履けるとも思わぬけれども。 テレビ時代劇『鬼平犯科帳』のどの回だったかに、兇賊の手にかかった被害者の墓前に参る場面があった。事件はつい先だってのことで、墓はまだ真新しい素木の一本柱だった。墓柱背面の墨書に、たしか「寛政二年」とあった。松平定信主導による「寛政の改革」が始まろうとする時代である。 ちなみに同じ池波正太郎ワールド『剣客商売』では、田沼意次が権勢を振るっているところを観ると、舞台はひとつ前の時代だ。おそらく秋山小兵衛は長谷川平蔵より二十年ほど前の人だ。地震や火山噴火をはじめ天変地異が重なり、飢饉の年が続いた。打ちこわしや百姓一揆も頻発した。田沼意次は庶民に倹約を…