作家。1915年(大正4年)2月28日、岐阜県生まれ。 吉行淳之介・遠藤周作・安岡章太郎などと共に第三の新人と称される。 1955年「アメリカン・スクール」で芥川賞。 1966年『抱擁家族』で谷崎潤一郎賞。 1972年『私の作家評伝』で芸術選奨文部大臣賞。 1981年『私の作家遍歴』で日本文学大賞 1982年日本芸術院賞。 1983年『別れる理由』で野間文芸賞。 1998年『うるわしき日々』で読売文学賞。 2006年10月26日歿。
ちょっとほかに読むものがたくさんあって間隔があいたが小島信夫「小説作法」(中公文庫、2023年4月)のつづきを電車の中で読んでいた。 ドストエフスキーの「悪霊」について語っている部分は面白く読んだが、自分があまり関心のない話題(ドガや戯曲やカフカや)についてはつい読み飛ばしてしまう。 というのも小島信夫の語りというのはたいへんに回りくどくて、何がいいたいのか話を聞いていても(文章を読んでいても)さっぱり合点がいかず、面と向かって聞かされていると「いいから要点と結論を言ってくれ」と怒鳴りそうになって来るからだ。 とりわけ「私の最終講義」という副題がついた「小説とは何か」という講義の中で「チャリン…
新刊で出たばかりの小島信夫「小説作法」(中公文庫、2023年4月)を買う。 最近は小島信夫はまったく読まなくなった。というより、読むのが嫌だった。その理由はのちに述べるが、2年くらい前に小島信夫の虜になっていた頃は、手に入る限りの小島の小説をすべて読み、「抱擁家族」と「うるわしき日々」をワープロで全部書き起こしたりしていた。 小島信夫の小説には磁場のようなものがあって、そこにハマるとちょっと頭がおかしくなって、考え方に変なクセがついてしまう。その磁場からいったん抜け出すと、もう一度入りたいとは思えない。 しかし今回の新刊は単行本未収録の対談も収録されており、買えるときに買わないとすぐ絶版になる…
数日前に友人と居酒屋へ行ったときに刻んだ蕗の薹と桜エビのかきあげを食べた。数駅となりの町にある居酒屋へ行くために、まず家から最寄り駅まで自転車で行った。途中、中学校の正門の横にある八重桜が咲いていた。今が盛りと咲いていた。かきあげの蕗の薹の苦味が美味しかった。その翌日の昼には冷製パスタを買ってきて家で食べた。近所に評判の良いパスタがテイクアウトできる店があり、ときどき買ってくる。冷製パスタは二種類あって、冷製パスタはじめました、というポップが添えられていた。海老とアボカドとフレッシュトマトとブロッコリーと水菜のペペロンチーノという冷製パスタだった。その翌日にはたくさん黄砂が飛んできた。なんとな…
残光 作者:小島 信夫 新潮社 Amazon 『残光』小島信夫著を再読。 確か第三の新人に含まれている人で、安岡章太郎や庄野潤三あたりのユーモアにも通じるものがある。他に何作か読んだ。読んだとしても、たぶん、覚えてはいない。拙ブログを検索して確認する。 これは加齢のせい、それとも記憶の容量に問題があるのか。ともかく映画もかつてスクリーンで見て感動なり興奮なりしたはずなのに、TVやDVDで再見すると、何か違っていたりする。 『残光』は、読書人関係のWebやブログを拝見してどうも読み辛そうだという先入観があった。あった、あった。而してそれはこの本を読み進むにつれてコッパミジンに粉砕される。 90歳…
もう日本は経済的に大きく浮上することはなく、ジリ貧に陥る一方と思われるので、これからは経済的な豊かさ以外のことに主な喜びを見出していくしかない。そんな時代にあって、貧困や苦しみの中で何気ない日常生活に生きる歓びを見出すことの価値を教えてくれる私小説の存在意義は大きい。とりわけ高齢者の書く私小説が増えていくのは必然であり望ましいことだ。保坂和志の短編小説に文字通り「生きる歓び」というのがあるが、これはいい小説だと思う。あっさり書かれているように思えるから自分でも書けるんじゃないかと思って書こうとしても、当たり前のことだが書けない。それでも読んでいるだけでも面白い。保坂和志は小島信夫に傾倒していて…
庄野潤三の『貝がらと海の音』などを読むと、これこそが「うるわしき日々」だよなあ、という感じがする。現実に存在する『うるわしき日々』という小島信夫の小説は、言葉の通常の意味において、タイトルと中身に著しいギャップがあると言わざるを得ない。 老年期に入った作家とその妻、そして家族の生活を描いた長編小説という点では共通するが、両者の間には何という違いがあることか。 同じ年に芥川賞を受賞し(「プールサイド小景」と「アメリカン・スクール」)、共にロックフェラー財団の招きでアメリカに一年留学し、帰国後に生涯の代表作といえる作品を書いた(「静物」と「抱擁家族」)この二人の作家が、その後に歩んだ道のりのコント…
昨日、「吉本隆明と小島信夫の対談は予想通りよく分からない話に終始。」と書いて終わったが、実はあのときは半分しか読んでいなかった。 今日、最後まで読んでみて、やはりよく分からなかったのだが、一か所だけ小島信夫の発言でハッとするところがあったので備忘録メモとして引用しておく。 それから、「他者」ということですけれどね、「小林秀雄」のところに自分の陰との対話ということが出てましておもしろかったんですけれども、ぼくもそうだと思うのですけれども。しかしわれわれの場合は他者といってもどうしても違うと思うのですね、西洋の場合と。われわれにもいろいろな意味で小林さんとまったく違う人間といいながら、何か小林さん…
昨夜は十一時過ぎに寝て、夜中の三時前に目が覚め、そのまま目が冴えて眠れなくなった。トイレに立ち、猫が二階から降りて寝室に入ってきて、小一時間iPadを見たりして時が経つのを待ち、浅い二度寝をし、ベッドを出るのがかなり辛かった。 誕生日だが誰も祝ってくれないので、自分で盛り上げようとして、いつもよりちょっと上等なおかきを買い(酒を買うのは控えた)、図書館に行く。幸い天気は良い。花粉のためか喉がいがらっぽい。 「Birthday」で検索して出てきた曲をプレイリストに集めてダウンロードしたのを聴きながら行く。坂の途中にATMがあったので列に並び暫く待って前に立つと画面がフリーズしていて操作できない状…
三浦清宏『運命の謎 小島信夫と私』の最後に、小島信夫の没後に交霊会で小島の霊を呼び出してもらったという記録が載っている。 昨日も書いたように三浦清宏はスウェーデンボルグにハマってロンドンの心霊協会で一年間滞在し、その後も心霊に関する書物をいくつも出している人なので、そういうものが載っていることに驚きはない。ただ会話の中身があまりに空疎なので、載せる価値があったかどうかは疑問に思った。 三浦が信奉(?)していた審神者大西弘泰という人のつながりで、すっかり丹波哲郎ばりの「霊界メッセンジャー作家」になった佐藤愛子のkindle本にも手を出してしまった。 佐藤愛子は瀬戸内寂聴とも交流があったようで、横…
三浦清宏『運命の謎 小島信夫と私』(水声社、2021年)という本を読んだ。 小島信夫が「アメリカン・スクール」で芥川賞を取り、アメリカ留学しているときにアイオワ州のポール・イングル教授のセミナーで出会い、帰国後小島の国立の家に半年ほど暮らした。そのときのことが、『抱擁家族』の中に出てくる、山岸青年のモデルが著者である。 小島の斡旋で明治大学の英語教師になり、小島の勧めで小説を書くようになる。小説を書き始めて二十年以上して、『長男の出家』で芥川賞を受賞する。 彼は小説家ではなく詩人になりたくてアメリカに留学した人で、スピリチュアルなものに惹かれる傾向があって、小島の紹介で森敦に会ったとき、「そん…
芥川賞受賞作を遡って読んでいるひとこと感想の続きです。70年代の分です。 1980年代:続続続・芥川賞ひとこと感想日記(1989-1980) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) 1990年代:続続・芥川賞ひとこと感想日記(1999-1990) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) 2000年代:続・芥川賞ひとこと感想日記(2009-2000) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) 2010年代以降:芥川賞ひとこと感想日記(2022-2010) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) ■ 森禮…
アメリカ 村上春樹と江藤淳作者:坪内 祐三扶桑社Amazon サブタイトルの「村上春樹」に心を引かれてたまたま手に取った本。開いたら『ライ麦畑でつかまえて』の話をしており、ちょうど自分が『赤頭巾ちゃん気をつけて』を読んだばかりで、『ライ麦畑』について考えていたところだったので、読んでみようと思った。 『風の歌を聴け』で村上春樹に心酔した本書の著者の坪内祐三。その後、小説作品は追わなくなったものの、村上春樹によるフィッツジェラルド『偉大なギャツビー』の翻訳を待望していたという。 しかし村上春樹が翻訳したのはサリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』。それはなぜか? というのが本書の前半の章の執筆動機で…
prtimes.jp情報は昨年既に公になっていたが、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が、彼の死去から10年になる今年、遂に新潮文庫より文庫化される。百年の孤独作者:ガブリエル・ガルシア=マルケス新潮社Amazonいつからか「文庫化したら世界が滅びる?」などと一部で言われていたらしいが、6月26日にそれが本当か確かめられる。やはり新潮社の純文学書下ろし特別作品はなかなか文庫化されなかったことで知られ、安部公房『砂の女』、大江健三郎『個人的な体験』、遠藤周作『沈黙』といった昭和文学を代表する作品は、文庫化まで15年以上かかっている……が、それは随分前の話である。生前の文庫化を拒否して…
私は「周辺から」事態を捉えるという視座を貫いてきた。それは単に、視座をずらすというだけではない。周辺へと押しやられる人びとに最後に残された眼力こそが、構造的暴力のあり方を照らし出す重要な立脚点となると考えるからである。エスノグラフィーを書くことは、事態にどうしようもなく巻き込まれる人びとが見届けている世界を、その傍らで垣間見るーー覗き見るのではなくーーことから始まる。自分の人生でありながら、決して思い通りにはならず、まるで劇場のスクリーンのようにさまざまな出来事が進んでいく。そうした「スクリーンの人生」において、人びとが「どうなるのか」と見届け、そして僅かの隙を探って「どうするのか」と身構えて…
毎週日曜日は、この一週間(4/1~4/7)に週刊誌や新聞などの書評に取り上げられた旬の本を紹介しています。書評内容については各誌・HPなどをご覧ください。 今週の書評本 *表示凡例◆掲載された媒体: 発行号数 掲載冊数書籍タイトル 著者.編者 出版社 税込価格 書評掲載回数(②回以上を表示) ◆サンデー毎日「遠回りの読書」: 4/14 号 2 冊父の革命日誌 チョン・ジア 河出書房新社 2,310キャラメル工場から 佐多稲子傑作短篇集 佐久間文子 ちくま文庫 968 ◆女性自身「今週の本」: 4/16 号 4 冊鼓動 葉真中顕 光文社 1,870ひつじが丘 三浦綾子 講談社文庫 770方舟を燃…
3/1 三月というだけあって、昼休みに少しだけ外に出たら暖かかった。帰りにコンビニに寄って柴田聡子のライブのチケットを発券した。 3/2 メガネ界が生んだスーパースター・柴田聡子のライブへ。ほんとにかっこよかった。帰宅後、余韻に浸りつつも『不適切にもほどがある!』の最新話を見たり、YouTubeでゲラゲラ笑ったりして、かなり眠くなったので寝る。 3/3 昨日の夜は眠くなってしまったので寝たが、ほんとは日記に柴田聡子のライブのことをもう少し書きたいと思っていたので今日書く。ついでにライブの前のことも書く。昨日はまず朝から同居人と外出し、用事を済ませたのち少し散歩してフォーの店に入って食べた。フォ…
昨日の行きつけの本屋で買った本のことを話題にしようと思っていたのです が、その話にはまったくならずでありました。 久しぶりの行きつけの本屋でしたが、この時期は高等学校の教科書扱いが 前面にでておりまして、昨日にはさすがに購入に来ていた高校生はいませんで した。地元の書店にとって、教科書販売の手数料は貴重な収入源なのであり ましょうが、ほんと本屋さんはたいへんです。 昨日に手にした本と買った本であります。 最近は文庫本の価格があがっておりまして、当方が買おうかなと思うもの は部数が少ないこともあって、定価が千円以下ということはないことです。 最近の中公文庫は、相変わらずで気になるものを出していま…
珍しく月曜から飲み会があったのだが、六時開始で二時間制での店、それ自体は珍しくないけれど、本当に二時間きっかりぴったりで終わりにしようと、店員からのオーダー催促や皿の回収がとても早かった。人気店らしく予約がたくさん入っているのはわかるから対応はするけれど、時間の八時きっかりぴったりに客を出そうとするのならラストオーダーで頼んだ品物が来るのが八時十分前はちと辛い、熱いものだし。おいしかったけれど慌ただしく、もう少し余裕が欲しいなぁと思った。その飲み会では小島信夫の『別れる理由』が話題の一つになって、今時そんな会はなかなかないなと楽しく過ごせたが、月曜の飲み会はこの一週間引きずってしまいそうだ、明…
■今日買った本。計3010円。 a)二階町三番街書店にて。→初入店。 1・広瀬鎮『サルの学校』中公新書 ¥50 b)真善美堂にて。→初入店。 2・山田正紀『チョウたちの時間』角川文庫 ¥300 3・庄野直美・編著『ヒロシマは昔話か』新潮文庫 ¥600 4・小島信夫『墓碑銘』潮文庫 ¥350 5・寺山修司『誰か故郷を想はざる 自叙伝らしくなく』角川文庫 ¥260 6・森内俊雄『使者』角川文庫 ¥250 c)喫茶フリーダにて。→古本販売棚がある。喫茶も利用。 7・モーリス=センダック/マシュー=マーゴーリス・作、モーリス=センダック・絵、山下明生訳『子いぬのかいかたしってるかい?』偕成社 ¥600…
泉が予備校生から大学生になるころは、吾妻ひでおがブームになったり、大久保康雄訳のナボコフ『ロリータ』が新潮文庫に入ったり、『ミンキーモモ』や『コロコロポロン』がアニメになったりして、ちょっとしたロリコン・ブームだった。それが数年後に、宮崎勤の事件が起きて、特に少女に悪いことをしたわけではない単なる趣味のロリコンまでが白い目で見られるようになった、というのが一般的な世相史の見方である。 だが、現実はそれほど苛酷ではなく、その後も少女ヌード写真集は刊行され続けたし、むしろそれらが違法とされた今世紀に入ってからのほうが、事態は苛酷になっていった。「ロリコン」という語には、まだかわいげがあったが、それ…
2024/03/09 土曜日は起きたら昼前のことが多いけれど、今朝は八時に起きた という文章を頭の中で思って、今日はそこから書き始めようと書いてみたけれど、もうそれは頭の中で完成していて、改めて書き出すまでのこともなかった、と書いて思った。 考えていることはわりとあるような気がしている、カン違いかもしれないけれど、あとになると忘れてしまう。 残業をして同僚とご飯を食べて、それなりにキャリアを重ねてくると、 「まだそんなことも知らなかったの?」 「一緒に入ったナニナニさんは知ってたよ」 「ナニナニさんはここまでできてるよ」 「もうワンランク上の人事評価を狙いたいとは思わないの?」 いろいろプレッ…
2024/03/07 『菅野満子の手紙』を読んでいる。会話がどーかしてる。『残光』でもどーかしてる会話があって、もしこんな夫婦が電車のホームでとなりに並んだら、俺はちがう列にならぶ。 Nさんは二人の、というより花畠での会話を読んで泣いた、と言っていて、書いている小島信夫自身も泣いて、それを書いていて、そこを読んだNさんも泣いた、とデニーズで言っていたのを聞いた。 Twitterにも書いたが、連載三回目くらいからだんだん面白くなってきて、(7日の日記のつづき) 書くことはいつもないけれど書かないといけないと思うので、『菅野満子の手紙』は買った本じゃない。借りてきた本なので書き込みができない、から…
2024/03/04 「そうです、あなたはすぐにこの家をお去りにならなければなりません」 夫にたいする明らさまな敵意だ、といい、次の手紙を証拠として引用する。ここのところを氏の文章はこう綴られている。 「ヘルダーリンとズゼッテはこれでこの家とヘルダーリンとのつながりに関しては事が終ったと感じた。こういう破局的な形に事を運んだことが後にズゼッテの切ない悔いとなった。しかし彼女はあの言葉を叫ばずにはいられなかったのである。彼女はその場合の自分の気持を的確に把掘してやがてヘルダーリンにこう書き送った。『それ(この家を去るようにと強く頼んだこと)はあのような暴力的な引き裂きに会ってわたしの心のなかにあ…
花園神社に詣でてきた。景気がいいネ。花園神社ってったら、芸人が多く参拝する神社だ。なんて話したら、私のかかっているカウンセラーの先生が、ちかくのガッコでスクールカウンセラーしてるんだってさ。 このひとが立派な、頭いいセンセイでね、っていうのはいいとして。 心理療法/カウンセリング 30の心得 作者:岡野 憲一郎 みすず書房 Amazon 精神科医が教える 忘れる技術 作者:岡野 憲一郎 創元社 Amazon 自分でも何等の疑問なく、たしかに、肌身に実感していられていることがあって、芸人、なんですよね、小説を書くっていうことをしている人間って。――私はそだちが悪いから、その通念をほんとうに自分で…