はじめに 現在のように流通網が発達し、全国で当たり前のように海の魚が食べられる以前は各地で多くの淡水魚が食されてきました。特に大規模水系である琵琶湖や霞ケ浦の周辺、あるいは海産物の入手が難しかった長野県などの内陸部では現在も川魚文化が息づいています。一方で三方を海に囲まれ、伝統的に海産物に恵まれてきた紀伊半島においては、一般に淡水魚の食資源としての重要度は先述の地域と比べて高いとは言えません。しかし、それでも内陸部や山間部を中心に古くから淡水魚を利用してきた歴史があり、その中には全国的にも類をみない興味深い漁法や利用法も含まれます。ここでは文献情報を中心に筆者が収集した紀伊半島における川魚文化…