尾崎紅葉『金色夜叉』徳富蘆花『不如帰』とならんで一世を風靡した3大国民的通俗小説であり、脚色されて新派悲劇の代表作ともなった。
小説。泉鏡花作。1907年(明治40)「やまと新聞」連載。主人公早瀬主税(ちから)と純真で義理堅いお蔦(つた)との悲恋と、権力主義への反抗を織りまぜて描いた風俗小説。劇化されて新派悲劇の代表的狂言となった。お蔦と主税の別れの場「湯島境内」は初演の際書き加えられたもの。
三省堂提供「大辞林 第二版」より
実生活で鏡花は神楽坂の芸者桃太郎(本名・伊藤すず、後に結婚)と同棲するが、それを師・尾崎紅葉から反対されており、早瀬も「婦系図」の中で「俺を捨てるか、婦を捨てるか」と先生に迫られる等その経験をこの作品に投影したと言われている。
青空文庫;http://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/1087.html
早瀬 月は晴れても心は暗闇だ。
お蔦 切れるの別れるのって、
そんなことは芸者の時に云うものよ。……私にゃ死ねと云って下さい
有名な湯島社頭のせりふは”婦系図”の原作にはなく、新富座で上演されたとき(明治41年 1908)脚色者の柳川春葉とお蔦を演じた喜多村緑郎の2人によって付け加えられたもの。泉鏡花はお蔦と主税の別れの場面である「湯島の境内」を、大正三年、舞台のために書き下ろした。