劇団東京乾電池『牛山ホテル』観る。作・岸田國士、演出・柄本明。 どえらいものを観た。緞帳におおきく「仏領印度支那のある港 九月の末 雨期に入らうとする前」とさいしょのト書が縫いつけてある。リーフレットにはこれまたおおきく岸田國士の言葉が印刷されていて、 〈『この作品を書いたのは、昭和三年(一九二八年)の暮れで、私が仏領印度支那に渡つたのが、それより十年前である。 私はほとんど無一文でフランス渡航を企て、幸ひ香港で臨時の職を得てこの未知の土地へひとまづ落ちつくことができた。滞在わづかに三ヶ月であつたけれども、この東洋の植民地における日本人の生活の印象は、私の脳裡に深く刻みつけられた。孤独な放浪の…