航空機の方向安定のために、垂直に設置された尾翼。
胴体に固定されている垂直安定板と方向舵からなる。初期の航空機では方向舵のみしか持たない場合もある。また、超音速機にも垂直尾翼全体を方向舵として用いる全遊動式のものがある。
ちなみに佐貫亦男氏によると(『ロマネスク空飛ぶうつわ』(ISBN:4769802137), P.145);
このサルムソンは、垂直尾翼も全可動式(このときはオールフライングとは呼ばないようである)であった。これはむしろ方向舵だけで、垂直安定板がないといってもよいけれども、垂直安定板は飛行機に欠かせないものだから、それを左右に振って方向舵の代用にするというべきである。
垂直尾翼は機体の風見安定のためにあるため、重心より前に設けることはあり得ない。また、独立した翼というより、胴体後半の側面積の拡張と捉えられる。
『ロマネスク空飛ぶうつわ』(ISBN:4769802137), P.151-152より;
これに対して垂直尾翼は胴体の延長部と考えてよい。いいかえると、胴体の側面積は機体重心の前方部より後方部が大きいが、それだけでは不足だから、つけ加えたものが垂直尾翼である。古いハンザ・ブランデンブルク機(ハインケルの設計)では、胴体後方の断面を上下に細長い長方形として側面積を増して方向安定板を廃止し、小さい方向舵だけをつけたものがあった。
要するに垂直尾翼はアスペクト比が小さくて飛行方向に細長い形、たとえば三角形の垂直板に長方形の方向舵をつけたものが多い。
この理由は、前に述べた胴体の延長の思想であるが、そのほかにアスペクト比が小さくなると失速しにくい長所がある。飛行機は左右に尾部を振る確度が大きいことがあるので、そのとき失速するとこまる。
なお、ジェット戦闘機などは重心が後方にあり、胴体の側面積は重心前方の方が大きいので、大きい尾翼が必要になる。超音速機では他にも複雑な操縦性や安定性の問題があり、これらの機体は非常に大きい、または2枚に分けた垂直尾翼を有しているのが普通であるし、さらに背びれ(ドーサルフィン)や腹びれ(ベントラルフィン)をもつものも少なくない。