安藤忠雄の作品,建築
ところで、あの人の療治はずいぶん面白いことをするのでございます。マルファさんはある水薬を知っていて、いつも絶やさないようにしまっておりますが、何かの草をウォートカの中に浸けたきつい薬でございます。あのひとはその秘伝を知っておりますので。グリゴーリイさんは一年に三べんほど中風かなんぞのように、腰が抜けてしまいそうなほど痛いので、そんな時この薬で療治をします。何でも年に三べんくらいでございます。その時マルファさんは、この草の汁をしませた酒で手拭を濡らして、三十分ばかりつれあいの背中を一面にこすって、からからになって赤く腫れあがるまでつづけた後、何かおまじないを言いながら、壜に残っている薬をつれあい…
き始めた。こうした憎悪の念が、かくまで険悪な経過をとってきたのは、最初イヴァンの帰省当時、ぜんぜん反対な事実が生じたためかもしれぬ。当時、イヴァンは急にスメルジャコフに対して、一種特別な同情を示すようになったばかりでなく、彼を非常に風変りな人間だとまで考え始めた。この下男が自分と話をするように仕向けたのは、彼自身であったが、いつも妙にわけのわからない話しぶり、というより、むしろ彼の考えが妙に不安な影をおびているのに、一驚を喫するのであった。そして、一たい何かこの『瞑想者』をこうたえまなく執拗にさわがしているのか、合点がいかなかった。 彼らは哲学的な問題も語り合ったし、また創世のとき太陽や月や星…