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一妻多夫

(一般)
いっさいたふせい

一妻多夫制度は、一人の妻と多数の男性が婚姻関係を結ぶこと。人間の社会におけるオスメスの結びつきでは、ペア制度やその延長としての一夫一妻制がもっとも主流であり、続けて一夫多妻制が少数のオスの間で実践され、その次に一妻多夫や売春が来、最後にオスメス入り混じった多夫多妻制や乱交が来る。どの社会でもこれら4つのすべてを程度の差はあれ含んでいるが、通常は多数派としての一夫一妻制と少数の一夫多妻という構図で捕らえられ、より少数派である一妻多夫や多夫多妻は注目されにくい。しかし、一妻多夫は多夫多妻に比べれば明らかに数は多く、それが公的に認められた婚姻制度のひとつとなっている社会も、一夫多妻が公的な婚姻制度として認められた社会より更に少数ながら存在する。そして、短期的な一妻多夫というべきものは売春として、どの社会にも広く存在する。これもまた、短期的な多夫多妻というべき乱交よりも数は多い。

人間の社会は普遍的にオス優位の面が強いため*1、一妻多夫制度は一人の妻を多数の男性が共有するという枠組みで実行されることが多く、また分析の上でもそう捉えられてきた。

この枠組みにそって考えた場合、一妻多夫制度は複数のオスが一匹のメスを共有して交尾権を獲得する点で売春と共通する。違いは前者が長期的な関係であり、かつある程度特定されたオスの間で交尾権が移動することである。人間のオスがメスへの交尾権を獲得するためには、恋愛・色恋やセフレなどの一定程度継続するペア関係、その長期化した形である結婚、などの形態があり、オス、メスともに(時にはその周りの人物まで巻き込んで)より条件の高い異性を目指して相手を吟味しあい、また性的に強い嫉妬心を相手に対して抱くが、オスの性的嫉妬心は、メスのそれに比して、傾向としては質的に差異があり、より肉体の占有権(交尾権およびメスへの支配を含む交尾独占権)に関心があり、他のオスによる当該メスへの交尾権行使に強く反応する傾向を有する。これはオスが体内に子を宿すメスと違い、子供が自分の子供である保障を得ることが難しく、最悪他のオスの子供を育てさせられるため*2、それを少しでもカバーするために。人間の場合においてそのオスがとった戦略の一つである*3

この観点から見たとき、一妻多夫制度は、交尾独占権の面ではたいていのオスが最終的に落ち着くことになる一夫一妻に比べると格段に劣り、結果子孫に自分の遺伝子を伝える確立も低くなり、他のオスの子供に投資せざるを得ない可能性が非常に高くなる。そのため一妻多夫制度は、一夫一妻や一夫多妻よりも交尾権の獲得を多くのオスに確実に保障する制度であり、オスにとってメリットもあるが、しかしそれを利用するオスでさえ、可能ならば一夫一妻制や一夫多妻制度のようなよりオスにとって条件のよい制度に移行することを望むことが少なくない*4

一妻多夫の恩恵にあずかりながら、一妻多夫よりも一夫一妻や一夫多妻を望むオスに対して、厳しい評価を下す例として、そもそも彼らはメス(乃至その親や周りの人物)にとって有利な条件*5をそろえられなかった、残酷に言ってしまえば交尾権獲得競争の敗残者であり、交尾の機会をまったく得られないまま死んでしまうことも多い存在である以上、メスとの交尾の権利を得られるだけでも満足すべきであって、そのようなオスが一夫一妻や一夫多妻などという、オスの交尾独占権や、それを通じた確実な遺伝子伝達権を与える制度を望むのは、通常のオスが一夫一妻や一夫多妻などに執着し、メスの交尾に抑圧をかけようとする以上に、男尊女卑の観点に立ったメスにとって耐え難い暴力であるというものがある。これに対する反論として、一夫一妻や一夫多妻が必ずしもメスへの一方的な交尾抑圧に結びつくのではなく、とりわけ一夫一妻制の場合はオスメスともに他のメスオスと交尾しないという意味での貞節を守ることも多いのだから、そのような批判は的外れであるばかりでなく、単にメスの権利を隠れ蓑にしているだけで実際にはまったくメスの権利の保護とは関係なく、そのような欲望を持つオスはかならずメスを抑圧するだろうという偏見に基づく差別でしかないというものがある。更に、ただなにかを望むだけで、暴力であると批判するのは人間の思考内容に対して干渉しており、それこそが重大な差別であるという反論がある。

現実に一妻多夫の形をとる家庭の場合、オスにとってのこのような利益を最小限にするため、血縁関係の近いオス同士でメスを分け合う、父性一妻多夫制度を行うことがどの社会でも主流である。これはトーラーで兄の嫁を弟に下げ渡す習慣とも共通している。また、史記は匈奴にも兄の嫁を弟に下げ渡す習慣があったことを示している。違いは血縁関係にあるオス同士での一匹のメスへの交尾権の分有を時間をずらして行うか、同時に行うかである。後者の場合、妻とする時期がずれているため、兄も弟も交尾独占権を獲得できる期間を有しているが、一妻多夫制度ではそうではない。

それでは逆に一妻多夫が、オス優位でメスに対する抑圧が多いと指摘される一夫多妻や一夫一妻と違い、メス優位の制度かといえば、必ずしもそうとはいえないという意見がある。確かに受胎をするという観点だけからすれば、一夫多妻ではセックスの頻度が下がるため受胎の機会が無意味に消費されてしまうし、原則としてオスの精子を独占できる一夫一妻でも一匹のオスの精子しか受け取れないのに対し、一妻多夫は多くの男性の精液をもらえるため受胎に有利である。しかし、人間のメス(とその周りの人々)においては、オスの質、とりわけ生活力とそれに結びつく資質である筋力や知力、地位や、自分や子供に対してよい扱いをする性格のよさを厳しく吟味する傾向がどの社会でも通文化的・通時代的に見てとれるが*6、そのような観点からしたとき、一妻多夫制度はともすればメスが選びたくないオスを、場合によっては複数長期的な交尾相手・育児相手として選ばざるを得ないという苦痛をメスに味あわせることになる。また、人間のオスの優位を支える傾向としての体の大きさや、暴力に訴える性質は、婚姻制度とは独立の形質であり、また兄弟同士や従兄弟同士で交尾権を分け合うという緩和措置があるとはいえ、個々のオスに交尾独占権がない以上、オスたちは何とかして自分の子孫を残そうと性行為に励むため、稀な事とはいえ最悪の場合複数男性による性的、肉体的虐待を受ける可能性もある*7。そして、自分と子供への投資という観点からすれば、複数のオスからの投資を受けれることは確かにメスにとってメリットであるが、一方で一妻多夫を利用するオスの平均的な質からすれば、そのメリットは帳消しになるのではないかという意見もある。

しかし、メス優位の一妻多夫の家庭は確かに存在しうる*8。そのような一妻多夫制度は、メスが非常に魅力的で、そのメスの夫となる複数のオスたちが、性的資源独占権への欲望を断念するか妥協してもなお、彼女との交尾権を獲得し、彼女と子供に対して親切にすることを望む場合である。その場合、メスは一妻多夫のメリットである複数のオスからの自分と子供への投資を享受し、そのデメリットである、複数の望まないオスからの性的行為の強要や暴力を最小限に抑えることができる。更には、複数の夫であるオスの中から、どの相手を交尾の相手とするかを選ぶこともできる。歴史上そのようなメスは存在し続けてきたし、キリスト教暦21世紀の自称先進国でも、そのようなメスは存在する。

*1:生物としての適応度、および生物の基本的な機能である自己複製で言えば、オスメスは完全に平等であり、ただ生殖のリスクとリターンにおける差異があるだけである。人間の場合は、オスは自己複製に関してハイリスクハイリターンであり、メスはより確実に自分の子孫を残せる。

*2:生物学的には他のオスの遺伝子とペアのメスとの間の子供を育てさせられることは自分の子供に投資することに比べて明らかなマイナスである。ただし自分に子供ができない場合、血縁の近いオスやメスの子供を育てることは、自己の遺伝子をより多く伝える観点からは有益であるため、養子という行為が生物学的な自己複製になんら基盤を置かない純粋に文化的なものであるというのも間違いである。実際に養子を取る場合、近い親戚の子供から養子を取る事例は多い。無論人間の場合はその高度に発達した共感能力から、まったく遺伝子伝達の観点に立たず、血縁関係のないに等しい子供を養子にして愛情を注ぐことも多いが、やはり平均すれば養子をとる場合も、血縁関係の遠近が愛情の多少に影響する。

*3:すべての両性生殖をする生物がそのような戦略をとるわけではなく、あくまで数多くある戦略のほんの一つに過ぎない。同じ霊長類に属する生物でも、ムリキのようにオスの交尾独占権などというものが無意味で、メスもオスも発情期になると乱交し、オスは精子の濃さと量で子孫を残す可能性を高める戦略をとった生物もいる。そのことを無視し、すべての生物のオスがメスの他のオスとの交尾に嫉妬し、メスの交尾を抑圧するのだとする、男尊女卑の強調推進の観点からした似非生物学的な論も多いので注意。

*4:売春婦を買いながら売春婦を蔑むオスと構造としては似ている

*5:生活力、それを支える知能、筋力、地位、性格のよさ、などもろもろ

*6:男系の血統が女系よりも多様性に劣っているのは、そのような淘汰の結果、子孫を残せなかったオスが多いことも一因だという意見がある。

*7:売春が、不特定多数の男性によるレイプになってしまう事例とも関連する。しかし一夫一妻や一夫多妻でも一匹のオスによるレイプやDVを受け続ける可能性は同じようにあるため、売春や一妻多夫特有の問題ではなく、様態の違いに過ぎないともいえる。

*8:メス優位の売春が存在しうることと同様に、である。しかし、メス優位の一夫一妻や一夫多妻も存在しうることから、売春や一妻多夫に限ったことではなく、様態の違いに過ぎないともいえる。人間のセックスにおいては、オスによる性暴力も多いが、しかし公的な領域でのオス優位に比べれば明らかにメスの地位は高い。

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