長い冬がすぎ、この家にも春がやってきた。 鶯の赤ちゃんが鳴くのにも先んじて、クラブアップルの低木に、白、ピンク、赤藤色と、それは見事な花が咲く。追随するようにして野薔薇、まるでそれ自体が花束であるかのように立派な、こがね色の雄蕊の冠をいただいて、白く小柄な花弁を開く。黄色やアプリコット色の水仙、葉には毒があると教えたら二人して怖がっていたっけ。ナデシコ、クロッカス、タイム、ピンクの芝桜に紫のオダマギ、八重咲の芍薬の小径、勿忘草、デルフィニウム、目も覚めるような、あざやかなヴァイオレットのライラック……薔薇にも色々あって、強いダマスク香が特徴的なマダム・ハーディー、薬種屋の薔薇との異名を持つ椿色…