中南米文学のうち、おもにスペイン語で書かれたものを指す。 マジックリアリズムと呼ばれる幻想性が特徴とされる。
ホルヘ・ルイス・ボルヘス ガブリエル・ガルシア・マルケス バルガス・リョサ アレッホ・カルペンティエル フリオ・コルタサル カルロス・フェンテス オクタビオ・パス レイナルド・アレナス フアン・ルルフォ
*1:旧・書肆風の薔薇
*2:ラテンアメリカ文学のみの叢書ではないが、重要な作品を多く邦訳する。
火の雨 アルゼンチンの作家・レオポルド・ルゴネスの作品を読みました。 タイトルは『火の雨』で全15ページの短編です。 収録は河出文庫の『ラテンアメリカ怪談集』からです。 レビ記26‐19 ―汝らの天を鉄の如くに為し汝らの地を銅の如くに為さん― 序文にちっちゃく書いてあり最初に読んだ時は読み飛ばしていましたが、どうやらこの作品は聖書の一節からインスピレーションを得て書かれたようです。 この作品は1回読んだだけではその魅力がいまいち掴めず2回目に読み直してからじわじわと体に浸透してくる不思議な作品でした。 こういう何度も読んでじわじわ身にしみてくる感覚がラテンアメリカの幻想文学・魔術的リアリズム作…
若い父親と息子が、二人ともが愛していた妻であり母である女性の死に打ちひしがれながら、ロードトリップに出る。悲しみによって結びついた二人が目指すのは彼女の先祖代々の家だ。そこで彼らは、彼女の遺した恐ろしい遺産と向き合わねばならない。不死を探求して口にするもおぞましい行為に手を染めるOrdenと呼ばれる一家だ。 息子のGasparにとっては、この狂気のカルトこそは宿命だった。Ordenが彼を自分たちの邪悪な世界に引き込もうとするため、彼と父は逃亡し、自分たちが生き残るためなら何でもする力ある一族から逃れようとしている。しかし、Gasparの父はわが子を守るために、どこまでやるだろう? 運命から逃げ…
J.L.ボルヘス『シェイクスピアの記憶』(岩波文庫)読了。 収録作の三編は『バベルの図書館22 パラケルススの薔薇』(国書刊行会)で 既読だったが、本邦初訳の表題作のために購入・読了。 シェイクスピアの記憶 (岩波文庫 赤792-10) 作者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス 岩波書店 Amazon パラケルススの薔薇 (バベルの図書館 22) 作者:J.L.ボルヘス 国書刊行会 Amazon fukagawa-natsumi.hatenablog.com 一九八三年八月二十五日 青い虎 パラケルススの薔薇 シェイクスピアの記憶 一九八三年八月二十五日 深夜、宿泊するホテルに帰ったボルヘスはフロントで…
プリンターの調子が悪い。ドキュメントがひとつ印刷中のまま、印刷もキャンセルもできず固まっている。パソコンとプリンタの電源を落としても、固まったまま動いてくれない。どうしても朝、印刷したいものがあったので、小学生が二人が家をでたあとにセブンイレブンへいく。途中、長男の友人の住むマンションを通ると、くだんの友人がゴミ出しをしているのを見かけた。そのうしろには、彼にそっくりな弟がいた。小学生、中学生、高校生がたちがわらわらと登校している。この地区は学生が多い。早朝(といっても七時半)のコンビニは、なんだか活気があるような気がした。これから一日が始まるのだという空気が漂っていた。無事に印刷を終え帰宅す…
★★★★☆ あらすじ ペルーの首都リマの士官学校で寄宿舎生活を送る人種・出身・階層の違う様々な少年たち。別邦題は「街と犬たち」。 感想 最初は物語の構造がよく分からなかったが、何人かの生徒の現在と過去が交互に描かれていく群像劇であることが分かってくる。過去は一人称、現在は三人称だったりするので、それを把握するまでにずいぶんと苦労してしまった。それぞれに共通して登場する人物たちも、誰が語るかによって本名だったり、あだ名だったりと呼び方が違う。 そんな中である生徒のあだ名が「奴隷」なのはびっくりする。ペルーでは割と普通につけられがちなあだ名なのだろうか。本人も普通に受け入れてしまっているようだった…
ブラジル文学って読んだことないなあと思い、読んでみた。 率直に申し上げると、あまり刺さらんかった。 現代の日本人30代弱者男性になぜ刺さらんか これは1881年の作品である。小説を読むときに何を期待しているのか。奇想天外な思想、日ごろ見かけない奇妙な人々、目もそむけたくなるような残虐な行為、偉大な英雄の活躍、詩人の発する霊妙なことば…… いずれにせよ日常生活では出会えない何かを求めている(もっとも惰性で読んでいるという場合も多いかもしれない)。 この点において主人公=語り手が提示する価値観は比較的現代の日本人と親和性が高い。いわゆる”弱男”にもなじみやすいはずだ。本小説は不倫日記といった趣で、…
2023-8-24はてブ公開 Borges y Yoホルヘ・ルイス・ボルヘススポークンワード¥204provided courtesy of iTunes 1967年のボルヘスの肉声らしい…
2023-8-24はてブ公開 前回ふれたボルヘス自殺メモ、探すとスペイン語原文が見つかった。 Borges todo el año: Jorge Luis Borges: Manuscrito hallado en la habitación de un suicida [Hotel Las Delicias, Adrogué: 1940] ノートの写真複製により公開されており、自筆を見ることが出来る。 ※方眼紙のノートだったんだ! 以下、前回公開のYates英訳と比較。ちょっと気づいたことあり。やはり原文を見ないとね… 🇦🇷☀️ El otro J.L.B. (el otro y verda…
シミルボン投稿日 2021.08.27 メモリアス―ある幻想小説家の、リアルな肖像 作者:アドルフォ ビオイ=カサーレス 現代企画室 Amazon ビオイ=カサーレスとボルヘスは二人とも探偵小説のファンで、エメセ社の翻訳探偵小説シリーズ「第七圏(El Séptimo Círculo)」を企画したことでも知られている(二人が主催していたのは1945-1955、主として英国の探偵小説を収録)。本書は、ビオイの自伝的エッセイ集で、あちこちにボルヘスの思い出が語られている。もちろん、この叢書に関する裏話も一章分(第19章)記載されている。特に興味深いところを要約。(原文を入手出来なかったので、ニュアン…
夏が来る度に思うのが「暑すぎてなにもできない」という事実。 冬から春にかけてあれだけ夏に羨望の眼差しを送っていたのに、いざ夏がくるともう本当になにもできない。 レンタカーを借りて海に行ってBBQやキャンプするぞとかとてもじゃないけどできません。 夏といえばカラッとした天気に爽やかな風が吹きセミが鳴き太陽が燦々と輝くと勝手に理想化して、夏がくると毎回幻滅してしまう。 現実はジメジメした天気にぬる温かい風にうるさいセミがけたたましく鳴き殺人的太陽光が降り注ぐ。 私はなぜこう毎年毎年と飽きもせずに夏を特別視してしまうのでしょう。 理由は海 海は太陽の光で煌めき潮風が頭の上を吹いている。 海岸沿いに延…
2024年度の読書企画のテーマは「マジック・リアリズム」アメリカ編。できれば2025年度にアメリカ以外編を。 失われた足跡 (岩波文庫) 作者:カルペンティエル 岩波書店 Amazon 4月からの新年度のシリーズ読書、2022の「平家物語」、2023「源氏物語」ときて、日本の古典は食傷気味なので、ぐーんと離れてラテンアメリカ文学を中心としたマジック・リアリズム小説を読んでみたい。ちょうと「本の雑誌」4月号の特集「マジック・リアリズムに酔い痴れろ!」とも連動。頭がグチャグチャになるくらいに!リストは↓ 百年の孤独(読了済み)近々文庫が出るらしいので再読するか? 族長の秋 4月 グアテマラ伝説集 …
雛の軸睫毛向けあひ妻子睡(ね)る 中村草田男。芭蕉の『奥の細道』は「月日は百代(はくたい)の過客(くわかく)にして、行かふ年も又旅人也。」と名調子ではじまり、この先も名調子はこのように続く。「舟の上に生涯をうかへ、馬の口とらへて老をむかふるものは、日々旅にして旅を栖(すみか)とす。古人も多く旅に死せるあり。いつれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊のおもひやます、海浜にさすらへて、去年の秋江上(かうしやう、川のほとり)破屋に、蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春改れは、霞の空に、「白川の関こえむ」と、そゝろかみの、物に付てこゝろをくるはせ、道岨神のまねきにあひて、取もの手につかす、もゝ引の破を…
幼年時代のスティーヴ・ロジャースの記憶にまずあらわれるのは、母親の面影である。父は空軍のパイロットとしてイタリアでの戦役に従軍しており、母は息子を連れてアメリカ中の空軍基地を転々とした。ミシガン湖畔のフォート・シェリダンからサウス・ダコタへ、そこからバッドランズを横断してユタへ、そしてフロリダへ、最後は海をわたってグアムへ行き、かまぼこ型宿舎に住んだ。母は日本兵の影に怯えて拳銃を持ち歩いていたという(『モーテル・クロニクルズ』はこの母、ジェーン・エレインに捧げられている)。 やがて戦争が終って父が退役すると、一家はロスアンジェルス近郊のサウス・パサデナに居を構えた。住民がみな知り合い同士である…
昨日に借りてきた「東京漫才全史」を手にしておりました。 さて、どのように読みましょうかと思ったのですが、やはり登場してくる漫才 コンビに馴染みがあるところからのほうが、頭に入ってくるようでありますので、 こうした読み方もあるのかなと思いました。 読み初めのページには、次のような記述がありました。 「演芸放送ブームの時代に活躍した芸人たちを最近では『お笑い第一世代』と 呼ぶようである。研究的な視点でみれば、いきなりテレビ時代から始まる歴史の くくり方には疑問をもたざるを得ないが、お笑いファンに大体の歴史の流れを説 明するには相応に役にたっているようである。」 演芸放送ブームというのは、これで見ま…
ジョササンの長編デビュー作。短編集『小犬たち』*1がおもしろかったので、読みました。ペルーの軍人学校(士官学校とは違うような違わないような)の殺伐とした青春の話です。犬は出るのですが、出るだけです。若者たちの性欲処理は鶏。ミッキー安川の回想*2によると、同時代合衆国南部の白人青年たちは牧場に行って牛とやってたそうですが、そういう場面はありません。リャマというか、ビクーニャが第一部には頻繁に出るのですが、撃ち殺されたのか、第二部以降は出ません。この動物を模して中国で草泥馬が作られたかと思うと、感無量です。 www.youtube.com 弱いものいじめがすごいのですが、特に人種や民族は関係ないよ…
Geoguessrで強くなりたかった(最近やってないが)のと、あとラテンアメリカ文学が好きで読んでたことがあったのと、ほかにもいろいろタイミングがあって、去年からスペイン語の勉強をはじめていた。途中のマイルストーンとしてDELE A1に合格したので記録。 勉強しはじめたときにはこういう試験資格はまったくイメージしていなかったものの、勉強が中だるみしていたころにいい目標に据えられそうだったので活用した。DELEとは「Diplomas de Español como Lengua Extranjera」つまり「外国語としてのスペイン語検定」。日本でもいくつかの都市で半年に一度受ける機会がある。 こ…
真っ白いスカンクたちの館 作者:レイナルド・アレナス インスクリプト Amazon レイナルド・アレナス『真っ白いスカンクたちの館』(1980年) 2023/12/4〜12/28(計18日) 第一部 プロローグとエピローグ 12/4(月) 〜p.36 文章ヤバい。執拗な繰り返し。意識の流れというか、イメージの本流。ほぼ散文詩。『夜明け前のセレスティーノ』はこれほどではなかった覚えが。明らかにレサマがゲームチェンジャーだろう。主人公フォルトゥナートの一人称かと思ったら別の人物の語りやらが錯綜して(『めくるめく世界』的)、ストーリーはほとんど無い。字組みも実験的。 でもかなりアレナスの実体験をその…
この本は読めないといってある現代の歌人の本を投げ出すのはあたりまえにしても、大江健三郎やマルケスが称讃したというラテンアメリカ文学を読めないといって投げ出すのもまだよしとしても、本が読めなくなっているのではないのか、という恐懼にともかく、かられる。大江もマルケスもどうだっていいではないか。読まなくてもいい作家ではないか。そして、読まなくてもいい作家が多すぎるのは分かる、それはそれとして、じじつとして読めなくなっているこの事態が怖い。「読めない」という事実を上手に、他人にわかるように、説明できなくなっているこの状況そのものが。 火山の下 作者:マルカム・ラウリー 白水社 Amazon ランキング…
エチェニーケ邦訳作品を読もう!シリーズ最終章。幼年期のまなざし*1からイカレタ放蕩在欧作家の問わず語り*2を経て、本作へ。 「ヨーロッパを放浪する中年の主人公が奇妙奇天烈な妄想を語るのだが、その饒舌ぶりは病的なほどである」(『幾たびもペドロ』同様に)「現実に溶け込もうとしても溶け込めないところからくる狂気寸前の焦燥とあきらめのようなものから生まれるユーモアは独特で、他の作家には見られない種類」(野谷サンによる解説より)がぞんぶんに味わえます。 野谷サンも、初出が1983年「ユリイカ」なのに対応してかしないでか、修道女のヴァージニティを「すいません、童貞さま」と訳したり、偉丈夫なドイツ人バックパ…
今年は読むペースはまあまあだったのですが、ブログが書けなかった…。 基本的に新刊で買った本の感想はすべてブログに書くようにしていたのですが、今年は植杉威一郎『中小企業金融の経済学』(日本BP)、川島真・小嶋華津子編『習近平の中国』(東京大学出版会)、ウィリアム・ノードハウス『グリーン経済学』(みすず書房)、リチャード・カッツ、ピーター・メア『カルテル化する政党』(勁草書房)、黒田俊雄『王法と仏法』(法蔵館文庫)といった本は読んだにもかかわらず、ブログで感想を書くことができませんでした…。 このうち、植杉威一郎『中小企業金融の経済学』はけっこう面白かったので、どこかでメモ的なものでもいいので書い…
ペルー文学におけるポストジョサ世代の旗手なはずのブライスヘッドふたたびサンの『幾たびもペドロ』を読んで肩透かしをくらった*1ので、ほかも読もうと思って読んだのが本書です。 www.shueisha.co.jp 月報収録エッセーは四方田犬彦『複製の時代ーボルヘス』黒沼ユリ子『世界を狭く、近くするために』(連載■世界の文学・映画ノート)「ラテンアメリカ」筈見有弘 第十九巻ですが、旬のラテンアメリカだったので、えいやで第四回配本したみたいです。第一回がアメリカⅡ、第二回が、これも旬のクンデラを収めたドイツⅢ・中欧・東欧・イタリア(広すぎる)第三回配本はケズオ・イシグロらイギリスⅣ、第五回はソール・ペ…
全長1マイルにも及ぶ巨大な巨竜グリオールを舞台にしたシリーズ最後の長編にして、ルーシャス・シェパードの遺作と思われる作品になります。 巨大な竜が出てくるということで、ジャンルとしてはファンタジーに分類されるのでしょうが、前作の『タボリンの鱗』に収録されていた「スカル」が現代のニカラグアをモデルにしたテマラグアという国を舞台にしていたように、この現実世界と、特に現実世界の暴力と密接に繋がっているのが、このグリオール・シリーズの世界です。 本作の主人公はリヒャルト・ロザッハーという若き医師であり、グリオールの血について研究しています。 しかし、ロザッハーは金銭トラブルからグリオールの血を大量に注射…
2017年06月03日記事 3部作の締めは、コロンビアの作家・小説家(1928年ー2014年)ガブリエル・ガルシア=マルケス1982年にはノーベル文学賞を受賞している 私見だが、彼は一作のみでノーベル賞を獲った気がする「百年の孤独」(西: Cien Años de Soledad)だけで。 村上春樹ねぇ・・・処女作かなぁ「羊をめぐる冒険」を1つだけ読んだけれども、マルケスほどのインパクト・・・全然なかった 20代 安部公房、大江健三郎もよく読んだ。それぞれ何十作も 安部の作品はSF小説を読み始めるみたいに、ワクワクしながら読んだ・・・ その安部公房が読んで「ぶっ飛んだ!」と言わしめた作品が「百…
7時前まで寝る。早起きしてウォーキングでもするか、と息巻いてたが無理だった。朝食後、発送の手配ついでに軽く散歩。 HがAと出かけたのでピンチョンの本をフリマアプリに色々と出品。もうちょっと使える本棚にしていきたい。ラテンアメリカ文学全集とかも処分してしまおうかなぁ……。 View this post on Instagram A post shared by mstk (@mk_sekibang) 劇場版Zを最後まで観る。TV版からの改変箇所はすごく良かったし、いわゆるファとカミーユがノーマルスーツ越しにいわゆる「だいしゅきホールド」をしているカットの生々しさが実に富野的である。 View t…
前回の『昨日の世界』(シュテファン・ツヴァイク著)と打って変わって、今回は南米コロンビアのノーベル文学賞作家、ガルシア・マルケス(1928~2014年)の代表作、『百年の孤独』(原作1967年発表。日本発表1972年)を取り上げた。 架空の町マコンドを舞台にブエンディア一家が繰り広げる7代記。キャラが立った男女が多数入り組んで登場し、死んだ登場人物が復活したり、豚のしっぽを持った子供が近親相姦で生まれてきたり、不思議なエピソードが群れをなす100年の物語。 「魔術的リアリズム」「世界文学の時代を画した超名作」といった評価が世界を取り巻き、Web上でも多数の書評エントリがアップされている。いわば…