ギルバート・キース・チェスタトン Gilbert Keith Chesterton
1874年5月29日ロンドン生まれ、1936年6月14日バッキンガムシャー州ビーコンズフィールドにて死去、享年62歳。 美術学校に進んだ後1895年から政治評論や文芸批評、随筆、詩などを発表し始める。1911年に有名な「ブラウン神父の童心」を出版。 当時のイギリスの批評界の潮流として、カソリックに改宗した、代表的な知識人としても知られる。 ちなみにE.C.ベントリーと親友。
「チェスタトンのフェンス」、インターネットで遭遇したことのある言葉だが、「なぜそのフェンスが建てられたかわかるまでは、そのフェンスを撤去するべきではない」の出典となるエッセイを翻訳してみました。 意訳的なところも多いと思います。記憶が確かなら、どこかの書籍の中で翻訳はすでにあったような気がしますが、それは参照していません。翻訳の正しさを保証することはできません。趣味で訳しました。出典さえ明記してもらえれば無断転載可能です。 個人的な意見ですが、現代日本でも同じような問題意識はあるように感じます。「無限のリソースなど本当はないのに、無限のリソースがあるかのような問題解決の方法が提案される」という…
ちかごろ短編集ばっか読んでる気が。 「火星年代記」レイ・ブラッドベリ(ハヤカワ文庫) 初読。火星への探検を始めた地球人、そしてやってきた地球人に対峙する火星人。火星に入植し定着してゆく人類と全面戦争で滅びる地球、という物語を26の短編と断章で綴った年代記。…とまとめるとハードなSFの香りがしますが、視点はその時々を生きる市井の人々とその生活にあり、筆致は詩のように静かで柔らかく、時として物悲しく、時として寂寞で、たまにドタバタ笑劇も入ってたりしてますが、読後はそこはかとないうら寂しさ、無常感に包まれます。一方で近代の科学文明やアメリカの文化風習に対する風刺や批評性があり、また一方で奔放な想像力…
お題「写真で一言」 このイラストはチェスタトン『奇商クラブ』第一話より(イラスト初出1904年6月)。チェスタトン自身が描いています。もちろんこんなセリフの場面じゃありません。でもこのイラスト、なんかヘンテコな印象を受けるんですよ… 奇商クラブ (創元推理文庫) 作者:G・K・チェスタトン 東京創元社 Amazon ※ 同じ場面のイラスト(1935年英国出版、Ernest Wallcousins画) こっちの方が、小説で読んだ時の印象に非常に近い。チェスタトンの脳内イメージって、かなり普通人とは違ってるのかも…
シミルボン投稿日 2021.09.03 アポロンの眼 (バベルの図書館 1) 作者:ギルバ−ト・キ−ス・チェスタトン 国書刊行会 Amazon ↑旧版(1988)は変形本 新編バベルの図書館〈2〉イギリス編(1) 国書刊行会 Amazon 『バベルの図書館』(以下の引用は旧版1988から)の第一巻、チェスタトン集「アポロンの眼」の序文にボルヘスは探偵小説について、こう書いている。 ポーの発明になる探偵小説というジャンルは、それがあらゆる文学ジャンルのうちで最も人工的なものであり、最も遊びに似たものであるからには、いずれ消滅する時期がやってくると予想される。そもそもチェスタトンは書いていた、小説…
シミルボン投稿日 2020.10.08 ↑旧版の表紙 誤配書簡 (扶桑社BOOKS) 作者:ウォルター・S・マスターマン 扶桑社 Amazon (本項はシミルボンのお題「私が見つけた、隠れた名作」によるもの) いやあ、楽しい読書でした。全然この小説のことを知らなかったので、ちょっとびっくりしています。特に良いのがチェスタトンの序文。翻訳は苦戦してて意味が通りにくいところがあります(序文のみ。本文の翻訳はリズムが良く会話がスムーズで非常に快調です)が、これチェスタトンの探偵小説エッセイ(あるいは探偵小説の書評に関するエッセイ)のなかでも屈指の出来ではないかと思いました(この序文は全文をkindl…
今日はこの本を読んだ。 木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫) 作者:チェスタトン 光文社 Amazon 舞台はヴィクトリア朝のイングランド、だいたい1900年になるかならないかといった時代。 そこでは、無政府主義者による秘密結社が組織されていた。 それに対抗するために組織された秘密警察の要員が、いろいろあってその秘密結社に潜入して……というのがおおまかな筋になる。 で、この本だけど、びっくりするほどつまらなかった。今年読んだ本の中でダントツに面白くない。 構成には全体的にひねりがない。 それに、大真面目にバカなことをやっている人に特有の、なんというか……不条理な雰囲気を文章から感…
今日は遅番だった。朝、小坂井敏晶『神の亡霊』を少し読む。すこぶる刺激的な本だ。彼は、私たちは自分の死を選ぶことができると書いている。死にたければ死ねばいい、と。これは危険な議論だと思う。私は「死にたい」と願う人、死の自己決定を望む人に対して「死ねばいい」とは言えない。その自己決定をその人が後悔しないとは言い切れないからだ。生きていれば過去に下した決定を後悔することは山ほどある。間違いは誰もが犯しうる。それが人間の人生というものだ。ゆえに、死を望む人に向けられるべきは別の言葉だとも思った。こうした議論に私を差し向けてくれたという意味で、皮肉など交えず小坂井の本を良書だと思う。「生きていればいいこ…
この記事は先日投稿した、チェスタトン『ブラウン神父の無心』に関する記事の補足である。可能であればそちらを先にお読みいただきたい。この記事の内容は、(1)前回触れた、本作における「隠すこと」及び「見えないこと」に関するトリックの内実をより明確にして区別すること、その上で、(2)エドガー・アラン・ポオの「盗まれた手紙」(1845)と本作との関係を改めて問うことである。 チェスタトンのこの著作から、「折れた剣の招牌」、「透明人間(見えない人)」、「飛ぶ星」、そして「イズレイル・ガウの信義」については真相に触れる。またポオの「盗まれた手紙」については第2節で扱う。 *第3節を新たに加えた(5/2)。 …
思うところあり、ギルバート・キース・チェスタトンの『ブラウン神父の無心』(1911)を(何度目か分からないが)読み返した。ここでは三つの作品を中心に、この探偵小説史上屈指の名短編集について少し論じてみたい。 それら三作品とは、「折れた剣の招牌」、「透明人間(見えない人)」、そして「イズレイル・ガウの信義」である。収録された他の四つの短編についても言及する。 *引用は南條竹則・坂本あおい訳(ちくま文庫、2012年)による。原文を参照する際はプロジェクト・グーテンベルクのものを利用した。 【以下、諸作品の真相に触れる。】
ポンド氏の逆説【新訳版】 (創元推理文庫) G・K・チェスタトン G. K. Chesterton - The Paradoxes of Mr Pond 読むと覚醒されざるを得ない小説がある。これはその種の小説だ。わたしは覚醒させられる作品が好きだ。チェスタトンのこの短篇集は短篇でここまで読者を覚醒させられるのかという驚きに満ちている。その驚きの源は逆説(paradox)である。逆説とは何か。一見矛盾しているようだが、という例のやつである。一見矛盾しているように見えて、じつは真理である。一見矛盾しているように見えて、じつはやっぱり矛盾している。この二つの場合があるから厄介だ。一見矛盾しているよ…
A Flash of Light by Richard Connell 初出: Redbook Magazine June 1931(挿絵Rico Tomaso) Part 1はこちら↓ In the library of the house on the cliff, a spacious room paneled in oak. Matthew Kelton sat with Andrew Moor. Moor was haggard. His red-rimmed eyes spoke of tears and no sleep; his pallid face twitched. Th…
この古典をそのまま読むのは危険。なにしろ1895年の著書。今と同じ前提で書かれていると思うと誤りになる。まず、19世紀末の心理学は20世紀後半の実験や観察、アンケートなどを使った実証的なものではなく、哲学の一分野だった。ニーチェがいう「心理学」みたいな所にある本なのだ。なので本書の群衆の心理分析が現実に即して妥当であると鵜呑みにしないほうがいい。当時は反ユダヤ主義、犯罪遺伝説などの偏見や差別意識があった。ここにもそれが反映されている。 また著者のいう群衆は、路上の示威活動だけではない。路上の集会、団体交渉、組合活動・農民運動まで含み、さらに議会・裁判の陪審員、普通選挙、労働者や農民など階級まで…
本稿は,外山恒一氏主催・第34回「教養強化合宿」(通称・外山合宿)に参加しての感想・知見を明文化することを目的としている(第1章・第2章).また,これに合わせて,筆者自身が今後の発展学習の参考とするために,講義中に紹介された文献の一部を掲げる(第3章).さらに,「ギャラリー」と題した章に合宿中の写真を時系列でいくつか掲げる(第4章). なお,念のため筆者の立場を表明すると以下の通りになる. ノンポリ・ノンセクト.強いていうなら社会民主主義・ローザ主義. 新左翼運動は歴史学の対象として見ている.学生運動やセクトには一切関わっておらず,今後関わるつもりもない. 参加時点での所属は早稲田大学教育学部…
1905年発表の本書は、以前<ブラウン神父もの>や「知りすぎた男」を紹介したG・K・チェスタトン初期の短編集。全く新しいビジネスを創造することで入会できる<奇商クラブ>についての短編6編と、短編「背信の塔」中編「驕りの樹」が収められている。<奇商クラブ>に登場するのは、英国でも一二を争う優秀な判事だったバジル・グラントが、突然法廷内で発狂し隠退した後の物語である。 グラントはブラウン神父ほどの愛らしさはないが、分けのわからないことを並べ立てる点では同じ。わたしことスウィンバーン氏は、元判事に事件に付き合わされて閉口している。全く新しいビジネスというのが曲者で、他者の模倣や改良であってはならない…
全6項目●代表作●「物語の作り方」 ●「ジャーナリズム作品集」 ●「生きて、語り伝える」 ●「第55回カルタヘナ・デ・インディアス」 ●「Las películas favoritas」 「ロベレ将軍」より 全6項目 ●代表作 小説「百年の孤独」、 「誘拐」「エレンディラ」、 「コレラの時代の愛」、 「迷宮の将軍」、 映画共同脚本「前兆(Presagio)」ルイス・アルコリサ、 〃共同監督「青いイセエビ(La langosta azul)」等 ※langosta(ランゴスタ。ロブスター。イセエビ) 小説家、ジャーナリスト、映画評論家、脚本家、映画監督、俳優 、映画学校共同創設 等で活躍したガブ…
あまりにトリビアルなネタ。古い探偵小説の重度のマニアしか喜ばないはず! 藤原編集室のWebサイト『本棚の中の骸骨』の投稿コーナー「書斎の死体」に掲載されている真田啓介さんの「The Avenging Chance の謎」(2013年5月改訂版)、これが本当に素晴らしいエッセイで、私は初めて中篇の存在を知り、真田さんの分析力に舌を巻いたのものです。それからずっと短篇小説The Avenging Chanceの「初出の謎」にぼんやりとした興味を抱いていたのですが、この度めでたく決着がつきそうな「事実」を見つけたのです!(まだ最終チェックはしてないのですが、海外から本が届くまでのお楽しみです…) き…
寛容さがどんどん失われていっているように感じます。自分と意見の合わない人々に対しては、論破という方法で優位に立とうとします。強いものには忖度し、弱いものに対しては力で押し通します。 SNSやインターネットは匿名性が高く、力を行使するためのとても便利なツールとなってしまいました。 スペインの哲学者であり思想家であるホセ・オルテガ・イ・ガゼットは考えます。 「文明はなによりもまず、共同生活の意思である」 他社と共存することこそが「文明」であり、手続きや規範、礼節といったものが重要になります。 「違いを認め合いながら共生していく。それは手間も時間もかかる面倒な行為であるけれど、それを可能にするために…
昨日の続きです‥。 3月13日(水)の朝日新聞一面コラム「折々のことば」は、G・K・チェスタトンの「誕生は、死と同じく厳粛な別れなのである。」という「ことば」で、いつものように鷲田清一さんの、次のような解説がありました。 『女性が子どもを得るというのは、子どもを独り立ちさせるという形で子どもと別れることである。 同じように、詩が一つの生命を得ることは、それを書き終えた詩人が別の存在へと離脱することである。 つまるところ、何かを生むのは分離、別れることだと、英国の作家は言う。 生むことで人は何かを我が物とするのではなく、失うのだと。「正統とは何か」(安西徹雄訳)から。』 なるほど、「何かを生むの…
―なぜ「情容赦のない国」が生まれたのか-著:セシル・チェスタトン訳:中山 理監修:渡部 昇一祥伝社(2011/09)ISBN:9784396650476原著は、1918年に著された。当時の世界環境と(イギリス人)戦病兵であった著者の見地からアメリカ史を自分なりに消化して書き上げたものである(p6)参考文献が限られる中での史実上の誤記や本人の記憶違いは、巻末に校訂・脚注が付されている。 主な項目は、・植民地時代の黒人奴隷の位置付け・独立宣言と独立戦争・合衆国憲法・リンカン大統領・南北戦争の始まりとその後 本多勝一氏は、「アメリカ合州国」と言い表したが、アメリカ諸邦連合:USAは、「各州」と「各州…
「一月は行く。二月は逃げる。三月は去る。と昔からいわれるように、三学期は、あっというまに過ぎてしまいます。だからみなさん、いままで以上に一日一日がんばってください」 大昔、ぼくが小学二年生か三年生のころ、三学期の始業式で校長先生がおっしゃったことばだ。「一日一日」は「毎日」だったかもしれないが、あとは鮮明に憶えている。「一月は~」ではじまる頭韻に、子どもながら、なるほどなあ、といたく感心したからだ。(むろん当時は、頭韻とは知らなかったけれど)。 ともあれ、この一月なかばから、いつにもまして飛ぶように時が流れてしまった。読んだ本はたった三冊だけ。それも二冊は寝ころんで。「今年は本をたくさん読もう…
S・S・ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』(創元推理文庫) エドガー・アラン・ポー『ポー傑作選1 黒猫』(角川文庫) ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』(東京創元社) S・S・ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』(創元推理文庫) 「そんなはずはない」ヴァンスは自分に言い聞かせるかのように言った。「あまりに途方もない。残忍すぎるし、どこまでもゆがみすぎてる。血塗られたおとぎ話――歪像の世界――あらゆる合理性の倒錯……。考えられない。意味をなさない。黒魔術や妖術やまじないみたいだ。まったく、正気の沙汰とは思えない」 ヴァン・ダインの名に、古色蒼然としたものを感じ取るようになったのはいつからだろうか? その作品…
殺人は容易ではない: アガサ・クリスティーの法科学 作者:カーラ・ヴァレンタイン 化学同人 Amazon 『殺人は容易ではない アガサ・クリスティーの法科学』Murder isn't Easy ~The Forensics of Agatha Christieカーラ・ヴァレンタイン著 久保美代子訳 化学同人 タイトルはクリスティー『殺人は容易だ』のもじり。 著者は英国の病理学者で、以前、アガサ・クリスティーをテーマにしたドキュメント番組に出演していた。 iledelalphabet.hatenablog.com
アマゾンで買った中古の月刊『ドラマ』、月刊『シナリオ』を読む。 いずれも定価以上だったが、今回購入した号はブックオフオンラインでは取り扱われていないため、入手できただけでもラッキーだ。 まずは月刊『ドラマ 2008年2月号』-(テレビ)ドラマの脚本専門誌。 (2008年、映人社) 『相棒』特集として、4作品(5本)の脚本、輿水泰弘さん・松本基弘プロデューサーへのインタビュー、櫻井武晴さん・古沢良太さん・戸田山雅司さんの「作者ノート」(自作解説)、シナリオ作家の桂千穂さんによる評論が掲載されている。 以下、掲載順に感想など。 『相棒』へのファンレター 桂千穂 P6・7 ※目次では「ファンレター」…
直筆の行き交ふ時代うららけし取りかへせない投函ひとつ春の宵立春やズレて固まる切手かな左四つ全盛時代冴返る下級生来て卒業の羽根胸元にバレンタインデー先に舟唄歌はれるビー玉の溜まる窪みや春浅し下請けの下請け直に梅の花濃密なとき経て疎遠朧かな(自由俳句風薫2024.2月) 手紙を投函することと結婚することは、完全にロマンティックな事柄として、今残された数少ないものである。ある物が完全にロマンティックであるためには、取り返しがつかないということがどうしても必要なのだ。(G.K.チェスタトン「異端者の群れ-HERETICS」) ─この原題のHERETICの字面ですぐ浮かぶのは「エクソシスト2─HERET…