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ゲーデル

(サイエンス)
げーでる

Kurt Gödel  (クルト・ゲーデル。1906年-1978年)
論理学者、数学者。
ゲーデルの業績は論理学の幅広い分野に渡っているが、中でも次の二つが特に有名である。

完全性定理とは一階述語論理が、そこで証明可能な文の集合と、論理的に真(妥当)な文の集合が一致する、という意味で完全である事を主張する定理である。この定理はヒルベルト・アッカーマンによる数理論理学の教科書 『Grundzuge der theoretischen Logik』において未解決問題として提出された問いに対する答えである。

不完全性定理における「完全」とは上に書いた完全性定理の場合の「完全」とは全く異なった言葉である事に注意されたい。これをごちゃまぜにしているが故に誤解をしている事が意外と多いように思われる。不完全性定理における「完全」とは、その公理系の任意の文AについてAが証明可能か¬Aが証明可能かの少なくとも片方が成り立つ事、である。故に、不完全性定理とは証明も反証もできない文が存在する事を主張する。

不完全性定理


ゲーデルの業績としては他にも集合論と一般連続体仮説選択公理の相対無矛盾性や、古典論理をベースとした算術の無矛盾性を直観主義ベースの算術の無矛盾性に還元し、さらに彼が導入した体系Tといわれる形式的体系にそれを還元した定理(いわゆるディアレクティカ解釈)など、様々である。

ここでは紙面の都合で紹介できなかったが、ゲーデルの数学基礎論、論理学、(数学の)哲学に与えた影響ははかりしれない。参考文献にそれらを学ぶ為に有用であると思われる参考書を挙げておく。

参考図書

「ゲーデルは何を証明したか」 アーネスト・ナーゲル、ジェームス・R・ニューマン著(isbn:4826900872)
この本はゲーデルの定理をインフォーマルに、且つある程度正確に解説した良書である。勿論、正確な理解の為には数理論理学の専門書を読むことが不可欠であるが。
『数学基礎論入門』 前原昭二著 朝倉書店 1977年(isbn:425411396X)
不完全性定理をゲーデルの原論文で用いたtype theoryを用いて初歩の初歩から解説した本。記号法や証明方法は現代的ではない点も見られるが、読みやすい。この本でも第二不完全性定理についての解説が含まれている。
『証明論入門』 竹内外史,八杉満利子共著 共立出版 1988年(isbn:4320014065)
完全性定理、不完全性定理は解説されていないが、ヒルベルト以来の証明論の成果がある程度収められた貴重な本。ゲンツェンが証明した一階述語論理のカット消去定理、ゲンツェンの自然数論の無矛盾性証明、ゲーデルの自然数論の無矛盾性の体系Tのそれへの帰着(いわゆる「ディアレクティカ解釈」)、より現代的な二階の証明論(実数論など)の導入など、証明論を勉強する上で欠かせない定理が収められている。理論整然としてコンパクトなので読むのは少し大変かもしれない。さらに進んだ本としては最後に挙げる同じ著者の本がよい。
『数学基礎論講義』 田中一之他著 日本評論社 1997年(isbn:4535782415)
この本はゲーデルの不完全性定理を含めた数理論理学、数学基礎論の成果をコンパクトに収めた良書である。ゲーデルの不完全性定理も現代的な手法を用いて解説してある。特に、第二不完全性定理について解説してある点は貴重。ただ、そのコンパクトさ故に読みづらい点もあるかもしれない。
『リーディングス数学の哲学 : ゲーデル以後』 飯田隆編 勁草書房 1995年(isbn:4326101040)
ゲーデルの数学の哲学に対する貢献が知りたければ、この本に収められている論文や各章の初めについている解説を読むといいと思う。各論文の後に収められている文献表も有益。ゲーデルの数学の哲学から、現代の数学の哲学の有名な論文までが収められている。
Hilbert's Program : an essay on mathematical instrumentalism, M. Detlefsen, Dordrecht, D. Reidel, 1986年(isbn:9027721513)
ゲーデルの不完全性定理はヒルベルト・プログラムを打ち破ったという主張がどれだけ維持できるのか、について詳細に論じた本。著者のヒルベルト・プログラムの見方は相当に偏っていて、そのままでは普通受け入れることのできない議論もあるが、刺激的な事は事実。ちなみにこうした話に興味があれば、ディトレフセンの他の論文やゲオルグ・クライゼル(G. Kreisel)のいくつかの論文もお勧め。
"Hilbert's programme", G. Kreisel, in Philosophy of Mathematics, Paul Benacerraf and Hilary Putnam, eds., Cambridge University Press, 1986(2nd.ed.), 207-238.
ヒルベルト自身の著作はその多くが曖昧な点を多く含んでいるが、現代的なヒルベルト・プログラムの解釈を提出したのはクライゼルによるこの論文であろう。クライゼルらしく、非常に難解で、追える所と追えない所が入り混じっている。クライゼルが最初に指摘したと言われる、(ゲーデルの第二不完全性定理が成り立つ)形式的体系Tについて、Tの無矛盾性を表しているように見えて、かつTで証明できるような論理式が存在する、に関連する話も入っている。大変重要な論文。
Recursive functions and metamathematics : problems of completeness and decidability, Godel's theorems, R. Murawski, Kluwer Academic Publishers, 1999年(isbn:0792359046)
あまり有名な本ではないが、ゲーデルの不完全性定理が初歩から、且つ現代的な手法が解説されている稀有な本。不完全性定理の様々な拡張や現代的な話まで解説されていて、歴史的な解説も豊富。ただ、帰納関数論の所は下に挙げたShoenfieldの本をそのまま書いていて、そこが読みづらいのが心残り。ただし、値段が張るので図書館で探すとよい。
Mathematical Logic, J. R. Shoenfield, AK Peters, 2000(reprint)(isbn:1568811357)
この本は数理論理学・数学基礎論における最高の教科書と言われている本で、内容としてはこの分野の(書かれた当時までの)大部分が入っている(完全性定理、エルブランの定理、弱い算術の無矛盾性証明、定義による拡張、モデル論、不完全性定理、帰納関数論、集合論など)。そのため記述はコンパクトで非常にエレガント。ただし、初めは多少読みづらいかもしれない。
Proof Theory, Gaishi Takeuti, North-Holland, 1987
一階述語論理の完全性定理カット消去定理や不完全性定理、二階の証明論、infinitary logic、Consistency Proofなどなど盛りだくさん。特に、竹内予想(高階述語論理のカット消去定理で、ここから解析の無矛盾性が帰結する。)の超限的な方法を用いたプラヴィッツ、高橋元男らによる証明や、\Pi^1_1 Comprehension Axiomの(証明論的)無矛盾性証明など、いわゆるゲンツェンスタイルの証明論の発展に関わる定理が書いてある点は貴重。本の書き方としてはコンパクトで非常にすっきりしている。最初に読む本ではないかもしれない。ただし、いわゆるヒルベルト・プログラムの延長線上にある現代の証明論を知るには必須の本。評判も非常に高い。


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