街の銭湯 ふたりは別れると、田岡は城西町にある自宅に向かった。 田岡の家は、以前祖父が米問屋をやっていた頃、松本駅南側の博労町(ばくろちょう)(本庄一丁目)という町に大きな店舗兼住居を構えていたが、終戦後、道路拡幅のため市から移転命令があった。それを機に病身となった祖父や母の再婚もあって、その米問屋の店をたたみ住居を引き払って今の城西町に移転してきた。 母は祖父の実子で女ばかり五人姉妹の末子であるが、上の四人は他家に嫁にいったり病死しているので、戦争で亡くなった安夫の父も田岡家に婿養子としてきた。祖父は半ば強引に母を松本高等女学校(蟻ケ崎高等学校)に入学させた。何故なら、現在は男女共学だが昭和…