中勘助「銀の匙」 月輪舘より 春の終わりの川霧-月輪舘跡から北上川を見下ろす-罔象女ここ半月ほど中勘助を読んでいる。学生時代に「銀の匙」を読んで,その文章の巧みさに唸った。それから四,五年ほどの間は,「あなたが好きな作品は何ですか」と尋ねられると,もっぱら「銀の匙」ですと答えていた。ある日のこと,私は近くに住んでいた「安全地帯」という作品を書いた作家に得意げに「銀の匙」が好きですと言った。するとその作家はちょっと顔を曇らせて言った。「なんか子どもに感情移入し過ぎることも良くないよね」と言った。大の大人が,子どもを使って自分の思い込みを植え付けようとすることを好ましいことではないとその作家は言い…